市民参加型の、新しい学会のかたち。

『どう乗り越える?小学生の壁』

著者:高祖常子
出版社:風鳴舎
出版年:2024年
出版社書籍案内ページ:
https://fuumeisha.co.jp/products/%E3%81%A9%E3%81%86%E4%B9%97%E3%82%8A%E8%B6%8A%E3%81%88%E3%82%8B-%E5%B0%8F%E5%AD%A6%E7%94%9F%E3%81%AE%E5%A3%81

評者:久米 隼(保護者会員)
投稿日:2024年8月1日

 表紙に「令和のパパ・ママ必見」という文字がある。今年で、令和も6年ともなれば、令和のパパ・ママのもとに生を享けた子どもたちも、いよいよ小学校に進学をするタイミングとなってきた。

 令和の時代に、子育てに向き合うパパ・ママ、そして子ども。少し前となった平成や昭和の時代の子育てと、同じ点もあれば、社会や環境の変化による違いを感じることもあるだろう。

 例えば、今では当たり前となったデジタルツール。我が国でパソコンが普及し、一気に広まったとされる2000年頃に生まれた年代も、すでに20代半ばとなり、ある意味デジタル機器やインターネットが当たり前になりつつある社会環境で産まれ、育ってきた年代かもしれない。さらに10年前にさかのぼると、1990年代前半はまだ10%程度だった。そう考えると、今のように子育てに関する情報を検索して調べることもできず、パパ・ママの悩みもこれまでとは違うかもしれない。

 このように、親と子を取り巻く社会や環境が大きく変化していることも踏まえると、令和の子どもたちがおかれている状況も少し立ち止まって考える必要がある。

 さて、本書は序章と第1章~第8章で構成され、子育ての悩みについて、パパ・ママのリアルな悩み話などをもとにしてまとめられている。

 例えばデジタルツールが当たり前になった現代だからこそ生じる悩みともいえる「スマホを持たせる?持たせないと困る?」(p.134)は、パパ・ママの小さい頃にはスマートフォンが普及しておらず悩むこともなかったかもしれない。

 一方、時代の流れにかかわらず「友だちと遊びの約束、ちゃんとできるかな?」(p.150)といった子どもの成長とともに生じる悩み、「PTA活動どう大変なの?」(p.184)といった親としてはじめて経験する悩んでしまう事柄を赤裸々に取り上げ、経験者のパパ・ママたちのエピソードをベースに「答え」ではなく、解決に向けた「対応のヒント」になる要素を示している。子育てに正解はないが、悩む親にとって「ヒント」は大いに参考になるだろう。

 その中でも評者が注目したのは、「子どもへの理解」というコーナーである。保育者・教育者ないしは保護者も含めた子どもに携わるすべての者にとって、欠かせないのは子どもの理解である。

 前述した通り、令和の子どもが育つ環境は、親とも違う。親よりもさらに上の世代にもなれば全く異なる状況にある。社会環境は子どもの成長に大きな影響を与えるが、その子どもを理解することは、子育てを考え、実践していくうえで重要である。

 「令和のパパ・ママ」に向けた本書は、子育てに向き合う親にはもちろんのこと、親と子を支える保育者や子育て支援関係者、子どもの住まう地域の方々にとっても大いに学ぶことの多い書籍ともいえる。

 一見、子育てに関するハウツー本にも見える本書であるが、安易に答えを示すのではなく、親や支援者が「子どもを理解」し、「体験談」や「ヒント」を参考にして思考しながら、自身の「子育て」を考えていくことを促している良書といえるだろう。


【著者紹介】

高祖常子(こうそ・ときこ)

NPO法人児童虐待防止全国ネットワーク副代表理事、NPO法人ファザーリング・ジャパン副代表理事マザーリングプロジェクト担当ほか。資格は保育士、幼稚園教諭2種、心理学検定1級、キャリアコンサルタントほか。Yahoo!ニュース・エキスパートコメンテーター。育児情報誌miku編集長に就任し14年間活躍。「幼児期までの子どもの育ち部会」委員(こども家庭庁2023年~)ほか、国や行政の委員を歴任。編集、執筆、全国で講演を行っている。テレビ出演や新聞等へのコメント多数。著書は『どう乗り越える?小学生の壁』(風鳴舎)、『感情的にならない子育て』(かんき出版)、編著は『ママの仕事復帰のために パパも会社も知っておきたい46のアイディア』(労働調査会)ほか。3児の母。(2024年7月4日現在)

【評者】

久米 隼(武蔵野短期大学幼児教育学科)


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