著者:イーベン・ディシング・サンダール
訳者:鹿田昌美
出版社:集英社新書
出版年:2024年
出版社書籍案内ページ:https://www.shueisha.co.jp/books/items/contents.html?isbn=978-4-08-721309-6
評者:佐柳信男(研究者会員)
投稿日:2024年9月9日
私たちの育児についての価値観は,自分の親や,私たちが住んでいる文化の影響を大いに受けていて,私たちはその価値観に気づけない場合が多いといえます。本書のように海外の育児について知ることで,私たちが「当たり前」だと思っていたことが,実は「当たり前ではない」と気づき,そのことによって子育てについてより自由に考えられるきっかけになるでしょう。
本書は,同じ著者と訳者による,より幼い子どもの子育てについて書かれた,『デンマークの親は子どもを褒めない:世界一幸せな国が実践する「折れない」子どもの育て方』の続編です。(この本は翻訳されてなんと32ヶ国語で刊行されているとのことです!)著者のサンダール氏は「「デンマーク流子育ての伝道師」として知られており,心理学の専門家の立場だけでなく,教師,カウンセラー,そして自らの子育ての経験も総合しながら,子育て中の親が気になるさまざまなテーマについて丁寧に解説を加えています。前編の『デンマークの親は子どもを褒めない』と本書『デンマーク流ティーンの育て方』は,特にご自身の子育てと並行して執筆していて,とても実感がこもっているとの安心感を持ちながら読めると思います。特に本書では,子どもの性との向き合い方,スマホやSNSとの付き合い方,また(日本では非合法ですが)ティーンの飲酒や薬物との付き合い方など,非常にリアルな問題についてもわかりやすく解きほぐしています。
『デンマークの親は子どもを褒めない』では,デンマーク流の子育ての6つのキーワードとして「遊ぶ」「ありのままを見る」「視点を変える」「共感力」「叩かない・最後通告を使わない」「仲間と心地よくつながる・絆」があげられていますが,本書ではこれらのテーマをティーン向けに適用し,これに「信頼する」「人格形成」「自分らしさ」「責任を伴う自由」のキーワードを追加しています。どちらの書籍でも「子どもをよく観察して傾聴し,その子に最適な子育てを考えましょう」との姿勢が一貫しています。また,評者が本書を読んでいて(良い意味で)驚いたのは,ティーンの問題ばかりについて書かれているのではなく,親が自身を大切にすることの重要性を強調していることです。子どもがティーンになると,自立して親元を離れていくことが実感されますが,それまで「子育てをしている」ことを少なからずアイデンティティの一部としていた親にとっては,それが「透明人間」になっていく感覚を言語化しているのはとても鋭い観察だと思いました。それに対して親が「自分に対する共感力を高めることが必要だ」との指摘は,近年心理療法で注目されているセルフ・コンパッションに通じるといえるでしょう。また,「子育ては『自分を見つめること』」という指摘も,子育てを通して親が自らの成長に気づいて手応えを感じるために必要なことだといえます。 訳者の鹿田昌美さんは本学会の会員でもあり,子育てに関する多くの書籍を手がけています。海外の育児については『フランスの子どもは夜泣きをしない:パリ発「子育て」の秘密』もおすすめです。これまでの子育てについての研究の知見を一般向けにまとめた『世界標準の子育て大全』や『いまの科学で「絶対にいい!」と断言できる 最高の子育てベスト55』といった研究に基づいた子育て情報を集めた書籍も手がけています(これらについては,タイトルはやや煽りすぎているとの印象を受けますが,内容は研究的な知見を淡々と紹介しています)。また,NHK特集でもフィーチャーされるなど注目された『母親になって後悔してる』も鹿田さんが訳したものです。今年(2024年)の本学会大会では,鹿田さんの公開企画を予定していますので,ぜひご覧になってください。
【評者】
佐柳 信男(山梨英和大学人間文化学部教授)