著者:金沢貴保
出版社:幻冬舎MC
出版年:2024年
出版社書籍案内ページ:https://x.com/gentoshamc/status/1796391156324225281
評者:佐々木由美子(研究者会員)
投稿日:2024年11月4日
近年,新生児医療は目覚ましく進歩し,これまで助けることが困難だった子どもたちも,その命をつなぐことができるようになりました。これは非常に喜ばしいことですが,命が助かっても完全に健康となるとは限らず,日常的に医療的ケアを必要とする子ども(医療的ケア児)が増加しています。一方で,医療的ケア児とその家族への支援は,医療の進歩に追い付いていないのが現状です。特に,生活の一部として人工呼吸器の管理や痰の吸引等の医療行為を日常的に必要とする重症の子どもを受け入れてくれる施設はほとんどありません。そのため,多くの場合,家庭で保護者や介助者が24時間,365日,医療的ケアの役割を担うことになります。こうした現状から,医療的ケア児を支える家族は,精神的・肉体的な負担が大きいことに加え,治療費等への経済的負担も大きく,家族への支援も課題となっています。
2016年施行の「障害者支援総合法」に,医療的ケア児が「障害」として初めて明記され,2021年には「医療的ケア児支援法」が施行されました。これらの法律によって,医療的ケア児とその家族を取り巻く環境は徐々に改善しつつありますが,未だ多くの課題が解決されていません。
著者である金沢貴保氏は,静岡県立こども病院で小児集中治療に長年取り組み,多くの子どもたちの命を救ってきました。しかし,どんなに頑張って命を救ったとしても,治療によって完全に健康になるとは限らず,医療的ケア児としてその後の人生を過ごしていく子どもたちの増加にジレンマを抱えていました。そうしたご自身の経験から,「自分が命を救った子どもたちがあたりまえに保育や教育を受けられる場をつくりたい,保護者が安心して子どもを預けられる場をつくりたい」という強い想いを抱き,重症度を問わず受け入れ可能な「多機能型児童発達支援センター」を2023年に開設し,ご自身はそこに併設する「クリニック」に常駐して,日々子どもたちと向き合っています。
本書は,医療的ケアを必要とする子どもたちの現状を深く掘り下げ,彼らの命と向き合う医療と福祉の課題に焦点を当てた一冊です。金沢氏は,本書の中で医療的ケア児と向き合う経験を通して,小児科医としての専門的な視点から,子どもやその家族が直面する課題を多角的に論じています。
本書の特徴は,医療的ケアが必要な子どもたちの多様なニーズを丁寧に描き出し,現場の実情を具体的な事例とともに紹介している点です。単に医療技術やケアの提供にとどまらず,子どもたちが社会的に孤立しないために必要なサポートは何か,家族の負担はどのようなものか,それを軽減するにはどうしたらよいか,といった点にも言及しています。また,医療的ケアを必要とする子どもたちが,より豊かな人生を送るために,社会がどのように彼らを支えることができるのかについて,具体的な視点と提案も提示しています。
特に,医療と福祉の連携の重要性についての指摘は重要で,専門職だけでなく,社会全体がどのように医療的ケア児とその家族に関与できるかを考えさせられます。その一例として,教育機関での受け入れや,地域での支援体制の必要性が具体的に示されており,教育や福祉関係者だけでなく,すべての読者にとっても共感を得ることのできる内容となっています。全体を通して,本書は医療的ケア児に関わるさまざまな課題を分かりやすく解説し,医療や福祉の枠を超えて広く社会的な関心を呼び起こす貴重な一冊です。
【評者】
佐々木由美子(足利短期大学こども学科教授)