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『うちの子、なんでできないの? 親子を救う40のヒント』

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著者:小笠原恵(東京学芸大学准教授・臨床発達心理士)
出版社:文藝春秋
出版年:2011年
出版社書籍案内ページ:http://www.bunshun.co.jp/cgi-bin/book_db/book_detail.cgi?isbn=9784163745701

評者:佐柳信男(国際基督教大学教育研究所)


 忘れ物が多い、すぐスネる、お片付けができない、すぐに手が出てしまう……

 親なら誰でも、この本で取り上げられている「気になる行動」のいくつかは自分のお子さんに当てはまるはず。しかも、このような行動は、親がいくら厳しく注意しても直らないものばかりです。子どもの将来を心配してのこととはいえ、ついつい厳しく言い過ぎてしまったときは親も良い気はしませんし、子どもも結局はいわれたことを守れずにシュンとしてしまいます。

 この本は、そんな「子どものよくある気になる行動」に困っている親に向けて、どのように対応すれば良いのかがとてもわかりやすく書かれています。40の「気になる行動」が取り上げられており、どれについても4ページの構成で「親が取ってしまいがちな対応」「そのときの子どもの感じ方」「では親はどのように対応すればよいのか」がイラストつきで解説されています。どの「気になる行動」についても、誰にでもできるようなシンプルな対応策が示されています。専門的にも内容はとても的確でありながら、同時に「気になる行動」への対応がうまくいかずに困っている親に安心感をあたえるやさしい語り口が特徴で、タイトルに入っている「親子を救う」という看板に偽りはありません。子育て中の親にとてもオススメの一冊です。

 著者の小笠原恵さん、じつは発達障害の専門家であり、この本で取り上げられている「気になる行動」は、いくつかの発達障害の典型的な特徴でもあります。しかし、本のタイトルや宣伝には「発達障害」という言葉が一切使われていません。これは著者の強い思いがあったためだと思われます。最近は「発達障害」という言葉がひとり歩きしているために、実際には障害ではないのに「発達障害」というレッテルを貼られてしまっているケースが少なからずある状況を危惧する専門家もいます。本学会の藤永保理事長が執筆した『「気になる子」にどう向き合うか:子育ての曲がり角』もやはり同様の問題意識から書かれたものです。

 また、発達障害でない子どもでも、発達障害の子どもと同じような苦手さを抱えていることがあります。多くの場合、親はついつい「苦手さを克服してほしい」「どうしたら苦手さを治せるか」というように思い、行動してしまうものです。しかし、著者が「(苦手さの)程度によらず、根本的な苦手さを治そうと思っても、それは難しいのではないかとおもいます。一般的に多くの人たちができる方法や学習スタイルで、苦手な部分に立ち向かおうとすると、本人も、まわりの人たちも大きなストレスを抱えることになります。その場合には、どうしたら"苦手さをカバーする工夫"ができるのか、柔軟な思考で、たくさんのアイディアをもっていることが必要になります」と指摘するように、発想の転換が必要です。

 これは、発達障害の有無にかかわらず、苦手なことを抱えているどんな子どもに対応するときでも考え方は同じです。つまり、発達障害であるかどうかに関係なく、目の前にいる子どもの苦手さともしっかり向き合って理解し、寄り添いながら苦手さをカバーする方法を考えて「生きにくさ」を和らげていくことが大切なのです。

 この本は何も専門知識がなくてもわかりやすく読めますし、子育て中の親が一番どうすればよいかわからず困っていることについても具体的にどのような対応をすればよいのか書かれています。著者は、この本を通して少しでも子育てが楽しめるようになってほしいとの思いからこの本を書いたそうです。もっとこのような本が増えることを切に願っています。子育て学会の一員である研究者として、評者も肝に銘じておきたいと考えています。


【評者紹介】

佐柳 信男: 国際基督教大学教育研究所