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『子どものうそ、大人の皮肉 ことばのオモテとウラがわかるには』

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著者:松井智子(東京学芸大学教授)
出版社:岩波書店
出版年:2013年
出版社書籍案内ページ:http://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/02/2/0286240.html

評者:伴碧(同志社大学)


 3歳の子どもに「ごはん食べられなくなるから、もうチョコレート食べちゃだめだからね」と言い聞かせたにもかかわらず、いつの間にか子どもは口の周りにチョコレートを付けています。「チョコレート食べたの?」と聞くと目をそらして「ううん(食べてない)」とうそをつくか「だって……」と言い訳をします。

 このように善悪がわかるようになるからこそ、子どもはうそをつくようになります(チョコレートを食べたのは悪いことだと、ちゃんとわかっているんです)。でも3歳児はまだ、うそをつくことが苦手です。子どものうそについての心理学実験の例を挙げてみます。

 テーブルの上にふたが閉まっていて中身の見えない箱があります。実験者は子どもに「箱の中身を見ないようにしてね」と言って、部屋の外にでます。でも(みなさんご存じのように)3歳児は我慢が出来ず、箱を開けてしまいます。実験者が部屋に戻ってきて「箱の中身を見た?」と聞くと、3歳児は「見てない」とうそをつくことができます。でも、「箱の中身に何が入っていたの?」と聞くと「クマのぬいぐるみ」と正直に答えてしまいます。このように、うそがばれないように話のつじつまを合わせることは、3歳の子どもにとってなかなか難しいものです。

 この本では、子どものうそや、会話を通して相手の意図をいつからどのように理解するかなど、ことばを通じたコミュニケーションの在り方について、心理学や言語学の実際の実験結果を交えながらわかりやすく書かれています。また、一児の母親である筆者の松井智子先生は、お母さんの視点から本書を書いていらっしゃるので、子どもにかかわるすべての方にとって身近な、お子さんとの実際の会話やお母さん同士の会話など日常場面での「あるある!」と思う例がたくさん挙げられています。そして、子どもと大人だけではなく、大人同士での会話が成功するためには何が重要であるか、どのような工夫が必要かなど、コミュニケーションを成功させるヒントを私たちに教えてくれる一冊です。

 最後に、筆者の先生から読者へのお願いを紹介させていただきます。

 「社会のなかで育つ子どもたちのことばと心の発達に、それぞれの出来る範囲でお力終えいただきたいのです。(中略)それが、次世代の担う日本人のコミュニケーション能力を育てることにつながると思うからです」

 この本を通じて筆者が伝えたかったことは、まさに保護者、子育て支援者、研究者の三位一体が実現した市民に開かれた学会である子育て学会の理念と一致するものだと感じました。


【評者紹介】

伴碧 : 同志社大学