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『みんなが気持ちいい学童保育』

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著者:長谷川佳代子 (社会福祉法人 わらしべ会理事長)(会員)
書籍名:[シリーズ子どもの貧困・2:「遊び・育ち・経験:子どもの世界を守る」小西祐馬/川田学編著、第5章、pp.151-174] 出版社:明石書店
出版年:2019年
出版社書籍案内ページ:https://www.akashi.co.jp/book/b454229.html

評者:矢澤圭介 (会員)


 学童保育について保育所・幼稚園ほどには、私たちは知らない。その歴史も新しい。1976年から国庫補助が始まり、1998年度から放課後児童健全育成事業として法制化された。日本子育て学会の会員の長谷川佳代子さんが、最近、主宰する法人の1つの事業である、学童保育についてその実践の記録をまとめられたのでご紹介したいと思う。本実践報告は、子どもの貧困をテーマとする書籍の1章として執筆されたものである。

 全体は、「1. 学童クラブという場」、「2. 学童で出会った親子たち」、「3. 学童クラブは「育つ権利」を育むところ」の3部からなる。「わらしべ会」は、埼玉県熊谷市にある設立28年の法人で、24年が認可外、社会福祉法人化して認可園となって4年目である。1992年に3組4名の親子が集まり、どんな子、どんな親でも入れて、親たちも主体になれるような保育園が欲しいと始まった。12時間保育、産休明けから学童までの保育、地域に開かれた「みんなでつくる」保育が当初から目指された。

 「1. 学童クラブという場」では、「1) 保育料っていくら」、「2) アウトプットする場」、「3)みんなでつくる」という内容が語られる。そこから、評者に印象深い記述を拾ってみる。1) については、「(保育料は、)安くなることは大事だと思っているが、無料というのは「人を育てる」という行為を他人に託すだけになってしまい、子育てに鈍感にならないだろうか」。また、2) については、「学童クラブは、保護者とよく話す」、懇談会、年2回のカウンセリングの場もある。さらに、「子どもたちは年1回、学年末あたりに大人による『聞き取り』の時間も持つ」。「学校というものが『インプットする場』とすれば、学童クラブというのは『アウトプットする場』だと思っているからだ」。「親も子も、もてる力を発揮して、人生の主人公になるのに、低学年から高学年までの長期間、所属することが大事だ。なぜなら、学童クラブは子どもだけでなく、保護者も一緒に変化し、成長していく場だと考えているからである」。3) については、「親子という縦の関係、友達という横の関係、そして地域のおじいちゃんおばあちゃんという斜めの関係を紡いできた。それがコミュニティだ。私たちにできるのは、地域のコミュニティをつくることだと思う」。

 「2. 学童で出会った親子たち」では、「貧困」がどう親子の姿として現れるかが、具体的・多様な5事例として語られる。その中から、なおや君(仮名)の事例を少しだけ紹介しょう。DVで離婚したシングルマザー家庭である。学童クラブにお母さんから連絡のない日が時々ある。「お母さんはいつ帰ってくるんだろう」。そう思うだけで、子どもは不安だ。ある日、支援員が心配して職場に電話したことがある。「19時半までには迎えに行きます。その後、なおやを家で寝かせ、また、仕事に行きます」とお母さんは言う。「働かなくてはいけない。そうでないと暮らせない。そのためには子どもと一緒にいる時間さえ保てない」。現実は厳しい。しかし今日はいつまでたっても連絡がない。迎えもない。「どうしたんだろうね」さらに心配がつのる私たち。私たち以上になおや君自身のほうが心配だろう。だが、なおや君は、疲れてぐっすり眠ってしまった。子どもが眠い時に自由にたっぷり寝かせてあげられない。それなのに子どもたちに降りかかった貧困が、眠ることさえ、さえぎってしまう。

 「3. 学童クラブは『育つ権利』を育むところ」は、全体をまとめている。学童クラブは、人生の最初にいろいろな異なる人たちと触れ合い、様々な体験をする場所だ。子どもたちには、そこで「人間っていいな」という思いをもってほしい。人と人とのコミュニケーション能力、自己肯定感、仲間意識、ストレス発散の方法、様々な体験の数、分析能力、知的好奇心、自由、など多くのことを子どもたちは遊びの中で学ぶ。子どもたちは『育つ』ことを目的化しない。楽しんで遊んでいるうちに結果として育ってしまうのだ。著者は、「学童クラブは、『子ども時代』を謳歌するところ、遊びながら『育つ権利』を育むところ」とまとめている。

 本論は、24ページの小論でありながら、具体的で豊かなアイディアに充ちた実践報告となっている。その豊かな内容に、日本子育て学会の会員の皆様には、直接触れていただきたい。今、社会には、子どもに「無い物ねだり」する教育観と、「仕事割りきり」の労働観が蔓延していると評者は感じている。この2つの「敵」と真逆の実践にエールを送りたい。

 


【評者紹介】

矢澤 圭介: 立正大学名誉教授