子育てコラム Column about Child-rearing » »タイトル一覧へ戻る



食べたものはどこへいく?!

岡本 依子

掲載:2015年2月8日




 ある日の食事の時間。当時5歳だった息子のシュントが「食べた物はね、お腹に入るんだよ。」 と言うので、「ふ~ん、お腹に入った後、どこにいくの? 」と聞いてみました。すると、シュントがおもしろいことを言い始めました。 「お腹に入ってから、食べた物は、上がってくるんだよ(両手で上がってくる様子の身ぶり)。だから、ときどきゲボ(嘔吐のこと)とか出ちゃうんだよ(困ったような表情で)。」

 シュントはつい数週前、体調を崩し嘔吐したのですが、それを思い出したのでしょう。困った表情が真に迫っています。そして、シュントの説明は続きます。

 「ゲボが出ないときはね、上に上がって、(食べ物は)頭に入るんだよ。お野菜とかが、頭に入って、中から上に押すんだよ(頭のあたりで、両手で押し上げる身ぶり)。お野菜とか、がんばって押すから、背が伸びるんだよ。」

 えっ?!と驚いた後、こみ上げてくる笑いを堪えながら、私が「そうだったんだぁ~ 」と言うと、シュントは、 「そうだよ!! だ・か・ら、お野菜とか食べたら、大きくなるんだよ!」
と言い放ちました。なんと得意気な表情でしょう。

 さて、このような子どもの考えは、どこから来るのでしょう。幼い子どもたちは、自分で見たもの、触ったもの、動かして試したもの…このような自分の身体の体験を通して学びます。上の例でいうと、シュントは確かに、大人から「食べた物はお腹に入るんだよ」や「たくさん食べると、大きくなるよ」と教えられていました。しかし、このような一方的な情報だけで、子どもが納得し理解するわけではありません。ほんの数年前まで、「食べた物がお腹に入る」と言われても、きょとんとして「なくなっちゃう」と言っていたシュントです。しかし、徐々に、満腹時のお腹の感覚を自覚できるようになり、その感覚を通して理解できるようになったのでしょう。また、食べた物がお腹から頭に上がって、中から押すから大きくなるのだという、シュント独自の説も、嘔吐のときの身体感覚がきっかけになっているのでしょう。野菜を持ち出したのは、植物の水やりで植物が伸びていくのを見た経験と結びついているのかもしれません。

 このような体験を通した学びは、そのときどきの子どもの理解や考えを支えるだけでなく、後には、学校での座学を中心とした学びにも影響します。ブランコの揺れる感覚は、もしかすると、物理学か何かの理解につながるかもしれないのです。子どもの幼い理屈ですが、子どもたちは、自分の頭を使って考える練習をしているのですね。


【著者紹介】

岡本 依子: 湘北短期大学・保育学科准教授