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保育のクロス・ロード 7

梅崎高行/細川美幸 往復書簡

掲載:2014年9月28日




あなたは研究者
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 多数の保育者から要望があり、勉強会を開催しました。しかし、第1回の勉強会に集まったのは3名でした。第2回目も3名でした。あなたは第3回以降も勉強会を継続する?

細川  保育者との勉強会は、梅崎さんと一緒にした大きな仕事の一つでしたね。
勉強会の在り方について、当時もいろいろと議論をしました。
ですので、いまさら?なクロスロードのような気もしますが、最近、考えることがあって、発問してみました。
当時と、今と、私自身で異なる点があります。それは自身に子どもができたことです。
保育者と一緒に勉強したい、となると、開催される勉強会が園から出張扱いされないかぎり、週末の夜か休日が良き時間帯になります。
夫や実家の協力を得て、夜や休日の時間が捻出できた、さあ勉強会!
人数がすくなくてももちろん楽しい!・・・けれど、子どもとの時間と仕事とを天秤にかけてしまう自分がいるのです。
子育てをしていることが仕事の足かせになるとは思わないし思いたくないのですが、自然と時間外の仕事をセーブしようとしたり、仕事を受けないようにしたり増やさないようにしたりする自分がいます。
ワークライフバランス、と言う言葉がありますが、何かをあきらめることでもあり、一方で、何かを得ることでもあり、あまり単純ではないように思います。
バランスをとること自体が葛藤、クロスロードの連続のように思えます。
夫も協力的で理解がある、けれども、子どもとの時間を選択したいと思うのは私の意思なんですよね。必要以上の仕事をしたくない。ナマケモノ細川の開示です。オハズカシイ。
さてさて、梅崎さん、どうでしょう?


梅崎  クロスロードをお読みして、確かに今さら?という感じがしました。
しかし、読み進めていくうちに、ワーク・ライフ・バランスの問いだということがみえてきて、なるほど、そういうことかと合点しました。

さて、私事ですがこの夏は2週間(8/1-8/13)、学生を引率してニュージーランドに出かけました。あちらの幼稚園を体験するという目的の研修でした。

実りあるものでしたし、行ってよかったと思います。
しかし、2週間の拘束は正直言ってつらいものでした。
だって、息子は2歳になったばかりなのです!
これからどんどんかわいくなくなるであろう息子が、二度と来ないいちばんかわいいときを過ごしている時期なのです(笑)。

一方、職場を見渡しますと、感じの悪い同僚は女性に多い気がします(爆)。

すごく切れるし、能力が高いのに、必要以上の仕事はしないし、会議で表立った発言もしません。
第一あまり職場で姿を見かけない気すらします。

でも、これに対して最近気づいたことがあります。
ああ、そうしないと両立ができなくなるからではないかということです。

彼女たちは、あまりよく思われていないことも承知の上でビジネスライクに振る舞い、しなければならないことと、守りたいことに優先順位を付けて、社会で戦っているのではないでしょうか。

そうだとすれば、とてもしんどいことだと思います。
女性にそのように強いる社会についてもどうかと思います。
何より、短絡的に人を判断した私自身を恥じる思いです。

そもそもワーク・ライフ・バランスって、他国にもある概念なのでしょうか。
先ほどお話したニュージーランドでは、(女性も男性も)先生方は終業のベルとともに帰宅されていました。

遅くまで残って研鑽を積んだり、教材を準備したり、部活や生徒指導に追われる日本とは大違いでした。

そのような先生方のうち、何軒かのお家からはホームパーティーに招いてもいただきました。
そこでは、家族の皆さんから受けた歓迎がとても心地よく感じられました。
ある校長先生(女性)のご主人が焼いてくださったラムのおいしかったこと!

一方、向こうの学校の同僚性が低いとは思いません。
朝は1時限目終了時にモーニングティーの時間があり、皆で集まってコーヒーや紅茶を飲み、お菓子を食べながら、談笑するのです。

多くは今度の休日をどう過ごすかといった話ですが、耳をそばだてますと、結構重要な情報共有も、ここでなされているようです。

ニュージーランドはクラスという概念が薄く、オープンな学びの形態が多いため、学校に通うすべての子どもの情報を共有する必要がある、というのが、密な連携に努める理由なのだと思われます。
何というか、職員会議っぽくないところがいいですね。

以上、縷々述べてまいりましたが、保育園の先生方にとっても大きな課題であろうワーク・ライフ・バランスについて、今こそ話し合われるタイミングではないでしょうか。

参加する誰もがプロとして、自覚や責任やプライドを持って臨むことは言うまでもありません。3人なんてありえない!

加えて、これを可能にする園環境を整えていくことも、私たちにとっての課題ではないでしょうか。

言い換えれば、仕事と家族がクロスロードになってしまう社会において、私たちは、安心して子育てなどできないのではないでしょうか。

ともあれ細川さんだけが我慢してしまうのは違うと思います。
私は細川さんが大変責任感の強い女性であることを知っていますから、なおさらそう思いますし、 世の多くの'細川さん'を救うためにも一度、先生方と話し合われることをお勧めします。


細川  > 世の多くの'細川さん'を救うためにも
この言葉に、爆笑してしまいました。そして、胸がすっとして救われた気分です。

ニュージーランドでのご経験、すてきですね。
家のことの葛藤を抱えて行かれた2週間だからこそ、見えてくるものもあるのかもしれない、と思いました。
自分でクロスロードを出しておきながら、なんですが、自分の葛藤は、必要な葛藤なような気もするのです。だから、GOにしろSTOPにしろ、答えが出ないのかもしれませんが。

> 彼女たちは、あまりよく思われていないことも承知の上でビジネスライクに
> 振る 舞い、 しなければならないことと、守りたいことに優先順位を付けて、
> 社会で戦っているのではないでしょうか。

この術は、上司(男性)から私も身に付けるようにと助言をいただいたことがあります。
「すみません、っと言って、仕事をしない、すこし横着なぐらいにならなんとアカン」と。
ありがたい助言でした。
そして、その術を使っている女性を、梅崎さんのように理解してくださる方がいるとはなんとありがたいことか、と、救われます。

でも、私は、未婚のとき、そして子どもがいない時、仕事をバリバリと楽しくやっていたとき、梅崎さんのように自主的にその術と背景を理解できたか、と問われたら、わかりません。
> 世の多くの'細川さん'
は、たくさんいるかもしれない。でも加えて、'以前の細川'も、世の中にはたくさんいるのではないかと、思うのです。

今、ぼんやりと思っているのは、だからこそ社会を変えよう!社会に理解してくれる人を増やそう、 という心の動きではなく、『私がこの葛藤を体験し続けるのは、私が親になる過程として私には必要なことなのかな』ということです。

今、女性の社会進出が政治的にも目立ってきましたが、『女性が働きやすい社会』が、『子どもも育ちやすい社会』であるのか、私にはまだわかりません。
第一、『女性が』という言葉で区切ると、大変やっかいな気もします。
生きる上で今やこんなに種々雑多な選択肢と意見と感情と発言力が認められた生物(苦笑)、『働きやすい』の概念そのものに個別性があるように思います。
選択肢があるからこその、葛藤だろうな、と、思うこともあります。

> 保育園の先生方にとっても大きな課題であろう
> ワーク・ライフ・バランスについて、
> 今こそ話し合われるタイミングではないでしょうか。

そう思います。
「結局、大切なのはバランスなのよね」
           じゃなくて。

バランスをとるために、個々が抱いている葛藤を語り合いたいように思います。
それこそ、終わらない対話、になるでしょう。これは単なる井戸端会議でしょうか。
いえ、
> 耳をそばだてますと、結構重要な情報共有も、ここでなされているようです。
と言う具合の対話を、したいな、と思っています。