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(続き)

梅崎  前回の森田先生のお話で、そうだよな、みたいなところは感じられますか?

仕事と子育ての両立(葛藤とやりがい)

松永  私もまさに今、上の子と下の子は別々の保育園に通っていますね。
 上の子の保育園は受け入れが1歳児クラスからの保育園で、私は下の子を0歳児クラスから入れたかったので、もう最初から無理なのは分かっていたんですが。やはり、待機児童は0・1・2歳がとても多くて、兄弟が別々の保育園に通われている方は、本当にたくさんいます。3歳以上になると、幼稚園に行かれる方がいるのと、募集人数の枠が増えるので空きがある保育園もあるようですが。
 あとは正直、保育園となると希望の保育園が選べない。自分の希望はもちろん出しますが、役所の方で優先順位の高い人から順に空いてる所に入園という形になるので、「こういう保育園に通わせたい」と思っても現状はなかなか厳しいですね。もっと働いているお母さんでも、選択肢が広がるような世の中になるといいなと思います。
 そういう意味でも私は時々働いている自分をちょっと責めてしまうときもあったりするんです。

梅崎  それはどういう意味でしょうか?

松永  (これは保育園の選定だけではなく)自分が仕事をしていなければ、もっと子どもにとっての良い環境を整えてあげられるのではないかとか。自分が専業主婦の家庭に育った事も関係しているかと思うのですが、時間的にどうしても一緒にいる時間が少ないので仕事をしながら子どもを育てる自分を自分で勝手に責めてしまうっていう部分があります。

梅崎  なるほど。ご自身を責めてしまうことがある。

松永  あります(笑)。

塚越  そうですね。ただ一方では、私が会うお母さん方の中には、子どもを預かってくれ、自分が子どもと少し離れて自分を取り戻せるので、保育園があることは助かっているとおっしゃいます。お母さん方も子育てと仕事をするわけですから、たいへんな時も多々ありますが仕事をもつことで、子どもと離れる時間があり、子どもとの関係もより良いものになるようです。

松永  分かります。(子どもと離れられる)その時間があることで、一緒にいる時間を大切にしようとか、子育ても仕事ももっと頑張ろうと思えたり。

塚越  そうですよね。

松永  自分の中でもモヤモヤとした感じなんです。

塚越  そうだろうと思います。

梅崎  何を取るのか、何を諦めるのかということでしょうか。

塚越  そう。その優先順位を考えていくことは、これからもずっとあると思います。1度に二つのこと、三つのことをやろうとすると、お母さんに一番しわ寄せが来ると思います。あるお母さんは2人の子育てをしながら働くことを決め、以前よりも生活が忙しくなったそうですが、それでも「気持ちが前よりも楽なので、たいへんだけど仕事だけは辞めたくない」とおっしゃっていました。

松永  そうですね、はい。

塚越  そんなですので、だからどうっていうことは言えないですが、それも現実かなと思っています。

松永  そうですね、はい。

子に対する親の過干渉

梅崎  なるほど。では、塚越先生は昨今、気になる子育ての現状というと、どんなことがありますか?

塚越  現状は、私立幼稚園から相談室へ勧めてくださる数が1年に約185組ほどあります。

梅崎  185?

塚越  185組、はい。1年間を通して子育ての相談に来て下さる方々の中には、お母さんが、割合子どものためにいろいろとやり過ぎているというか、過干渉のケースが多いと思います。今日の午前中の講演(乙武さんの講演)の中でも乙武さんがお話しになっていましたが、子どもがどう思っているのか、子どもがどうしたいのかを知ろうとせず、とにかく親が子どもよりも先にやってしまったりすることで、親が空回りしてしまい、子どもとうまく遊べなかったり、分かってあげられなかったりしています。
 具体的には、靴を履かせてあげたり、子どものかばんを持ってあげたり、していますね。もし、子どもが自分で靴を履けなかったら、子どもに履き方を教えてあげる(少し履かせてあげながら)。それから、「自分のことは自分でやろうね」と言えばいいのですが、そこで子どもがやろうとしないと、叱ってしまい、しかし結局お母さんがそのあとやってあげるので、そのような場面は気になります。お母さんは一生懸命子どもを育てようとしていることには変わりはないのですが、お世話して、注意して、こうなってちょうだいよ、という思いが強いのでしょうね。

若い母親の傾向

梅崎  母親が、子どものやることや失敗を、先取りしてしまうような傾向ということでしょうか。

塚越  はい、その傾向はあると思います。

森田  今のお母さん達はとっても真面目で、お母さん達もちゃんと個性を大事にする教育を受けてきて、一生懸命やってきた。少子化で子どもがすごく少なくなって、その中で期待されてきちんとやって努力したら偏差値上がるし、成績は取れて…というような(時代を生きてきた)。今、(そんな風に)女性も男性に伍して仕事をするようなところを通ってきた世代の人達が、だんだんお母さんとか、お父さんとかになって(いる)。(そういう方たちを)見ると、とっても真面目なんですよね。人から何か言われることにとても敏感だし、やっぱり子どもが少なくなったっていうことが関係しているのでしょうけれど、ファミレスとかで子どもが騒いでいることやなんかによくインターネットとかで「あの親は何してるんだ」みたいな書き込みをされていますが、そういう親バッシングを気にしているというか。自分自身はそういう目に合ったことないけど、きっと今の世の中は、親をそういう目で見ているんじゃないかと神経質になっていますよね。

多様化する価値観と揺れる母親

 あと今お母さんになっている人達、平均して30過ぎてから(子どもを)産んでいるんですね。だからさっきね、子どもを産んでみて分かったことがあるっておっしゃったけど、子どもを産む前までは、「あの親、何してるの、子どもにきちんとさせてほしい」っていうような立場の側にいた。そこからいきなり価値観が転換するので、お母さん達もすごく、どこで線を引いたらいいか、誰も教えてくれなくて迷っているっていうとこがあると思います。私達の小さい頃だと、3~4歳で公園で昼間遊んでたって、別に「あー、子どもが遊んでるわ」だけど、今は3~4歳で子どもだけで遊ばせていると、「親は何してるんだ」っていう時代ですし。親は子どもを1人日中遊ばせといたら、こんなに治安が悪いのに危ないじゃないかって、無責任な親みたいに思われたりする世の中ですよね。この短い何十年かの間に、物凄く親に求められるスタンダードラインが変わっているんだけど、どう変わっているんだか、世代共通の理解があるようでないっていう感じですね。

 わからないからお母さん達も、とにかく他人様に迷惑かけないようにとか、誰かに責められないようにっていうのが強い。真面目ですよね。とても真面目。だから追い詰められるというところがあって、だからその辺のところで、自分の子育てはこれでいいんだろうかとか、自信がなくて、お母さん達自身の肯定感がとっても低いというのはね、感じますね。よく話聞くと「全然余裕ありません」みたいな感じなんだけど、はたから見ると、とても綺麗で、身綺麗にしていて、子どもの服もちょっとかわいらしいもの着せていて、余裕があるように見える。でも今は虐待の通報もあるから、うちで大したことではないことでもギャーッと泣くことがあったら、とにかく窓を閉めてとか、物凄くデリケートに頑張っています。

求められる社会の援助

 やっぱりそのお母さん達がもうちょっとゆったり、親がもうちょっと地域の中で、「子どもってもっと、言うこと聞かんもんだよ」とか、「めちゃくちゃなもんだよ」とかいうの(受けいれてもらえる機会)が欲しいです。昔よりだいぶ求められるハードルが高くて、いい子、タラちゃんみたいな子を求める感が社会全体にあるので、それに(お母さん達が)追い詰められているところもあるなっていうのは、すごく思いますね。だから、過干渉っていうことになりがちなんですが、反対に、駄目よ駄目よって言ってしまうのを我慢して見守れる親でいいという社会を育てていかないとと思っています。それは冒険遊び場(*森田さんが展開に関わっておられる子育て支援事業)の方々もそういうことをおっしゃってましたね。泥んこ遊びなんかも(親が規制してしまう時代だけど)、親も遊び場の方や保育者の方の実践を見て、(実践)できたり、考え方が変わるっていうことがあるのです。

梅崎  そういうのを見て、こうしてもいいんだ(子育てってもっと自由だ)って思えるということですね。

森田  体験することで(子どもって泥んこ遊びで)こんなにいい顔するんだとか、そういうことに慣れていくっていう部分があるので、やっぱりやり過ぎ(過干渉)を適度にしていくのにも、やっぱり誰かに教えてもらうとか、後ろ姿を見るとか、そういう機会が大事。でも機会は減っているので、そういう(モデルを見せる)ことが保育士さんとか、幼稚園の先生の役割でもあるのかなと思ったりすることもあります。

保育者による親支援

梅崎  そんな保護者の方に、松永先生は日々保育者として接されてると思うんですが、今どんな言葉をかけたりされるんでしょうか。そういう自己肯定感の低い保護者に対して、何かエピソードがあれば、教えていただけますか?

松永  そうですね、やはりきちんとしなくてはと思っているのかな?と感じる保護者の方はいらっしゃいます。そういう方には、(そういう方にだけではないですが)こちら(幼稚園側)から見て、「こんないい面がある」とか、「こういう感性、素敵ですよね」とか、前向きな声掛けを意識しています。また、私達はこういう思いで保育をしていますと発信する事で子どもの育ちってこうなんだ、だから今は見守っていていいんだといった事が皆さんに伝わり、自分の子どもだけでなく皆でこの子達を見守っていこうという風にしていけるといいなと思います。

 あとは保護者同士のつながり、結構悩みを抱えながら、それを周りに言えない人も多いと思うので。保護者同士のつながりが持てるような活動も今後の保護者支援の課題かなと思います。

自己肯定観は母親にも求められる

梅崎  なるほど。塚越先生もそういう保護者の方にアドバイスなさったりするお立場でもいらっしゃると思うんですけど。

塚越  はい、どうもお母さんご自身も"優等生"を目指して育てられているようです。小さい時どうでしたか、と尋ねると、私もそういうことは母から止められていた、失敗はしない、皆と同じ、それから自分で壁を突き破って進むというよりも、周りに合わせることが大切なことを教えられているようです。このため、子ども達にも同じ姿を求め、私の子どもも皆と一緒に、人と同じように、とおっしゃる保護者が多いと思います。いちばん大事な、子どもの思いが二の次になっているような気がします。

 このようなお母さんにお会いした時は、ズバッとした言い方はしないですけれども、子どもの気持ちや思いに大人が近づく関わりとか、お母さん同士で話してもらうチャンスをなるべくつくるようにしています。でも、それでうまくいくかっていうと、お母さん自身の育ちの歴史は長いので、すぐには変わっていかないと思います。

松永  違っていいよっていうところを発信するのも、すごく大事だなと思っています。

森田  お母さん同士の仲間ができると、中には初めてのお子さんのお母さんもいるけど、3人目のお母さんとかもいたりして、3人目のお母さんとかはだいぶ緩くなっていて、その辺の影響がね、すごくいい感じだったりする。私達が訳知り顔で、こういうものよっていうよりかは、そのお母さん達の中で、ちょっと先輩のお母さんが、私も1人目そうだったけど今はこんなよみたいな話が、いちばんお母さん達もリラックスして聞けるし、「これでもいいんだ、それで?」みたいな。その当事者のね、つながりっていうのは、とっても支えになるなと、本当に思いますね。

塚越  そのお母さんの自己肯定感を育てる、というか、そのままの自分でいいと気付いてもらいたいですね。

森田  そうです。いいんだと思うと、子どももいいんだって、循環していきますからね。

塚越  そうですよね。

森田  本当にそれはそうだなーと思う。

(次回に続く)