注:文章中の写真と内容には関係がありません

(続き)

梅崎  なるほど。保護者代表として、森田さんには今日お越しいただいています。園の先生の考え方とぶつかるような経験って、保護者の方はどのくらいお持ちなんでしょうか。

クレームは増えている

森田  それは、融通が利く保護者もいるけれど、「蚊に刺されたんですけど」とか「噛み傷があったんですけど」とか、クレームを言う人はとても増えているというところはあります。「子ども同士で怪我させられたんですけど、この怪我についてどうしてくれるんですか」のようなことを言ってくることがあったり。
 うちのところは狭い場所で、そこに0歳児がいっぱい来るんですけど、赤ちゃんの日というのを設けています。そういう日に、ある保護者が上のお兄ちゃんを連れてきて、そのお兄ちゃんが寝てる赤ちゃんの枕元をヨロヨロと歩いたりすると、「はー?」となる保護者の方達がいて。あとでスタッフに、「今日は赤ちゃんの日じゃないんですか」みたいな(クレームをつけたり)ね。そのお兄ちゃんもこの間まで赤ちゃんで、今だって赤ちゃんですよね、というように(スタッフ側は)感じたりするのですが、たぶんとっても神経質になっているんだろうなって思う。

親の思いと子の思い

森田  でも、親の気持ちと子どもが欲することとは別なんですよね。赤ちゃんは、動き回るお兄ちゃんから目が離せなくて、一緒に行きたくてにじり寄っている。1~2歳くらいのお兄ちゃんは、もうすれすれの所だけどあんまり赤ちゃんにはぶつからないで、何か勝手にやってる。それを赤ちゃんが真似して、次の日には赤ちゃんがカラカラ(お兄ちゃんと同じこと)ができるようになりました、というようなことが起きたりする。
 主体的な子どもの育ちと、親が思っていることとは、ちょっと切り離してみることが傍目からは必要かなと思いますが、切り離すというよりお母さんの気持ちは受け止めながら、「すぐあんなふうに大きくなるよ」とか、「あの子もこの間まであんなやったわ」とか、そういうようなやりとりをしていくと、お母さんもだんだん視野が広がっていく。そういう体験を、できるだけうちの広場ではしてもらっています。その場では、怪我をさせられたことについて親同士が物凄く揉めて、(でもそのおかげで)そのあと子ども同士が学校に行くときに、よい影響が出てくることがある。だからもうちょっと長期的に、親にはもっと長い目で(子どもを)見てもらいたい。
 「お母さんが本当にいちばん大事にしたいことはなんですか」と言うと、この子に幸せでいてほしいとか、楽しくやってほしいって思ってる。怪我しないで友だちと仲良くやってほしいとか思っている。それなのに、この間(他の子どもから我が子が)押されたことにどうしてもこだわってしまって、それについて謝ってもらうことを求めてしまう。あの人は謝らないで、うちの子ばかりが悪いみたいに言う、みたいな。こういう親同士のトラブルと、子の不適応的な育ちは、母子が孤立していればいるほど、見られるような感じがします。特に子どもが小さいうちは、お母さんは自分の体から出てきたものなので、どうしてもそういうふうになりがちなんですけど。
 そこで、3人目のお母さんとか、私たちみたいな支援者が、少し長いスパンで見ることを伝えるというか、そういう視点も時々差し挟んでいく。でも、「皆そうなのよ」とか言うと、あなたの悩みは大したことないわとか言っているようにも聞こえるから、それはとっても気をつけながらですけど。信頼関係をつくって、時々そういうことも差し挟むと、お母さんの抱く「怖い」って思う気持ちを救ってやれるように思います。少しずつ、少しずつ私たちの言うことも、そんなもんかなとかと思えて、そういうプロセスを一緒に過ごすっていうのが、広場のような場所だと思っています。

孤立しないための支援

森田  子どもの主体性を育むために、今ここですぐ問題解決しなければっていうふうに、親(が)子を守る方向で動くと、反対の結果をもたらすことがとても多いなと思う。あと、私たちはみんな子どもだったんだけど、子どもだったときのことは全然覚えていない。だから、子どもの発達を理解するというか、このくらいの年の子はそんなもんよ、というような理解が少し欠けている。そして「大丈夫でしょうか、この子。おもちゃの取り合いばっかりして、いつか犯罪者になるかも」みたいな、極端な発想にいってしまう。本当に心配で、初めてで分からない、そういうふうになりがちなので、その辺のことが、お母さん同士のつながりによって、「そう思ったけどそうでもなかったよ」とか、「すごく大変だったけどそれはそれで面白いこともある」とか、友だちにとても好かれたとか、そういう触れ合いをお母さんも子どももいっぱいすることで、最終的には自由な、いろんな価値観を受け入れられる大人、子どもになっていくんだろうなと思っています。私たちがいちばんやっていることは、孤立しないための支援ということですね。

梅崎  親が孤立しない、ということですか。

皆が社会につながる

森田  親と子どもが孤立しないことを目指しています。孤立しているところには、先輩ママが訪問するような訪問スタートをつくったり。あとは、お父さんが子育て支援の所に行く機会は今でこそ増えてますけど、やっぱりお父さんがお母さんたちの中に行くのは苦手っていうこともあります。その場合には、パパの芋ほり大会などをやって、そこに一緒に来てもらったりして、家族ができるだけ社会に開かれていくような機会をたくさんつくるっていうことをしています。
 そうすると、その地域のおじいちゃんとかが、直接子どもに触れてくれたりして。そこでは保育園の先生とかのように、よく分かっている人が気を使って言うみたいな言い方ではなくて、「食え」っておじいちゃんが熱い芋を投げてよこしたりとか、「こらー」と怒ったりするようないろんな人の関わりがあって、さらに、泣いて慰められたりとか、いろんな体験がある中で、子どももいろんなことがあるっていう中にいられて、いろんなことがあっていいんだ、みたいな、そういう街になっていけたらなっていうことを思っています。孤立しない、皆が社会に繋がっていく入り口をつくるという思いです。
 あとは、そこから先、やっぱり家庭によって状況が違うので、すごく寄り添わなきゃいけない、手伝ってあげなきゃいけないとかいうことがありますし、その辺は専門家と役割分担しながらというふうに思っています。
 お母さん同士のペアレントトレーニングは、去年専門家を呼んでやったんです。トレーニングのあとに親グループを立ち上げました。いろんな自分達の悩みを、親は親同士で話し合っていくんだけど、中には過激なこと言う人もいるけど、それをちゃんとストップして戻す人もいたりして、三人寄れば文殊の知恵じゃないけど、仲間の中でだんだん「待とう、子どもの育ちを待とう」っていうことが少しずつできていくような気がする。やっぱり、待つ関わりっていうのが、自主性を育てていく前提というか、社会とつながっていく、いろんな世代の人とつながっていくということかなと思って、今はそこに力を入れています。

梅崎  子どもの主体を保障するために、不可分なものとして家庭や地域があり、その家庭や地域を整えることに尽力されている森田さんのお話でした。

(次回に続く)