コロナの保育現場への影響: 熊谷地域分科会の議論から

矢澤 圭介(支援者活動展開部門・熊谷地域分科会世話人)

1. 日本子育て学会の地域分科会活動: 子育て学会には、地域分科会という活動があり ます。その1つの熊谷地域分科会では、地域の幼稚園・保育園・認定こども園をメンバーに、「具体的な保育環境の設定と保育方法について、各園の実践を踏まえて考える」(「園の垣根を越えての話し合い」)を行っています。各園の理事長、園長、副園長、主任、担任保育者、そこに研究者も加わって議論しています。将来的には、学会理念の「三位一体」からも、各園の保護者もメンバーに含める方向で考えています。年4回の会合を予定しています。
 ここでは、2020年7月18日(土)13:00~15:00に行った本年度第1回の会合の概要を報告します。テーマは「コロナの保育現場への影響」でした。当日のメンバーは、熊谷市の3保育園、鴻巣市の1幼稚園・保育園、北本市の1認定こども園、東松山市の2保育園の7名、いずれも園長・副園長でした。また、研究者として矢澤と石井(立正大)が参加し、司会を務めました。当日はコロナ状況下、ズーム会議でしたので、新潟市から、1認定こども園(主任保育教諭)と研究者として斎藤(新潟青陵大)がオブザーバ参加しました。なお、行田市の1認定こども園(副園長)が書面参加しました。

2. 非常事態宣言以後の保育現場: 2月29日には、高校以下の一斉休業要請、4月7日には、非常事態宣言が発令され、ステイ・ホーム、三蜜(密閉・密集・密接)回避、丁寧な手洗いの強調という自粛生活の要請がなされ、5月 25日にはその解除がなされ、そして東京都を中心に7月になって、感染者数の増大が見られました(7/7で東京都の新規感染者は110名)。ただし、20代~30代の若者が7割を占め、無症状者も多く、重症者数は、例えば7/7で8名と少ないのです。こうした状況の変化に、保育現場はどう対応したのかをまず、報告しあいたいと思います。
 まず、保育園の対応です。熊谷市では4/8に自宅での協力保育の要請が各家庭に郵送され、6月末まで休園した場合の保育料は日割り計算で返金となりました。W園では、4・5月は通常の約1/6、6月より約2/3に戻り、6/20くらいから小中学校が始まり、ほぼ通常の登園状況になりました。M園(小規模、1・2歳)では、4・5月は通常の約1/4、6月は2/3以上に戻りました。I園では、登園自粛要請を受け、4・5・6月は通常の約1/5~1/3の登園で、職員も自宅待機と勤務の輪番制にし、この間の給料は満額支給しました。7月に入って登園自粛要請が解除となりました。次に、鴻巣市では、F園の場合、4・5月は約1/9でした。東松山市では、4/13から登園自粛要請が出たので、ku園(今年度から開所、現在16名在園)では、入園早々から、4月は臨時休園となり、医療従事者等、またひとり親家庭等への特例保育、平均5,6名、5月には1名の日もあり、休園状況でした。Ko園(小規模、1、2歳)では、4、5月は、医療従事者等がいたので、1日2、3名の登園でした。
 次いで、幼稚園・認定こども園の対応です。鴻巣市のF幼稚園では、3月は約1/3以上が休んでいたが、4月に入って市の一斉休業の通知がなされ、4、5月は休園状況で1日1、2名でした。北本市のI子ども園は、北本市では感染者が出ていないこともあり、市からは特に預かる子を限定することなく保育してほしいとの要望がありました。1号(幼稚園)の子の場合、4、5月は休園、ただし家庭で見られない場合は、希望の時間、預かりをしました。2号(保育園)の子(16名)も、在宅ワークの方が多かったため、毎日3~5名が登園していました。行田市のG認定こども園の場合、市からは感染防止対策をした上で、原則開園するようにとの通達があり、通常通り開園していました。登園自粛の家庭は約1/2程度でした(3~8月保育を利用しなかった保育料は日割りで減額されました)。
 それでは、新潟市の場合を見てみましょう。新潟市のS子ども園の場合です。新潟市の場合も4/20より登園自粛要請となりました。S園では5月の連休明けまでは、1号認定や育児休暇中の家庭に直接協力依頼することで、5~7割の自粛体制が出来ました。連休明けに、新潟市からの自粛要請が6月まで延長されたことにより、長期の登園自粛のリスクの状況調査をし、5月後半から分散登園を実施し、6月からの通常保育に向けて準備しました。
 感染防止のため保育現場で留意していること: 各園共通に行われているのは、次のことです。
 ① 職員はマスク着用します。保護者の安心のためにも必要と補足されていました。ただし、表情が見えづらい、熱中症への懸念という問題点も指摘されています。子どももマスク着用するが、0・1・2歳児は着けていないようです。戸外では外します。
 ② 健康観察カードの活用(家族内に体調の優れない方がいる場合は、通園の自粛を依頼します。しかし、強制はできない。)
 ③ 保育室内の換気の徹底を図ります。
 ④ 子ども同士が密にならないよう常に配慮します。食事は対面にならないよう座らせ、昼寝は布団を離します。
 ⑤ 清掃チェック表を作りこまめにアルコールを使って消毒します。ドアノブ、ブロックや遊具などの消毒をします。不特定多数の使用するものは使ったその日に消毒します。
 ⑥ 保護者の保育室への入室は禁止します。ただし、園での子どもの様子が分からなくなるのに対して、保育の様子が伝わるブログや写真入りの手紙を多く発行している園もあり、0・1歳児の保護者のみ入室を許可している園もありました。
⑦ 感染予防のために何かをさせるということでなく、子どもたちが自ら進んで楽しく感染予防できたらということで、手を洗う歌を作り、石鹸を削って石鹸のホイップクリームを作り自ら楽しく手洗いできる工夫をしている園もあります。また、「新しい行動様式」を6つのイラストにし、子どもたちに折に触れて見せ、共有化を図っている園もありました。

3. 保護者にどこまで情報を開示するか: 今日、出席予定であった園長の園で、職員の方が発熱して休んでいたが、医者の判断でPCR検査を行った。その結果待ちで今日出られないということでした。そのことを市に報告し、「当園としては、保護者にはできるだけ情報開示・共有の形で考えているので、保護者に説明したいのだが?」と聞いたところ、「保護者に無用な不安を与えるので止めてくれ」と言われたというのです。このことを、少し、話し合ってみたいと思います。
 「職員に新型インフルエンザが出たとき、保護者から隠すのか」という声が上がったことがある。この経験から、検査を受けた人がいる、陽性者が出たなどは、それを知ったうえで、どうするか考えるべきなので、伝えるべきと思う。また他の方からは「市は情報を隠さず開示している」と、「開示すべき」という意見があった。一方、「園の保護者が濃厚接触者となり検査を受けるということがあった。市と当該保護者との情報共有のもと、結果が出るまで情報開示はしなかった。結果は陰性であったので結局そのままだった」という方もありました。 

4. コロナ経験は保育をどう変えるか?: 現在どこでも大学はオンライン授業です。ところが、やってみて分かったことがあります。まず、学生の集中が高いことです。こちらもそうで、ふだん対面授業で1時間の内容が40分もあれば伝えられます。また、教室での対面授業では、学生一人一人になかなか目が向かないのですが、オンライン授業だと、学生の居室の状況までそれとなくうかがえる。また、学生に発言を求めても、対面授業の「人から見られている」というプレッシャーから解放されているのか、発言に伸びやかさが感じられます。これが、私のオンライン授業での体験的発見です。同じようなことが、社会の場でもあるように思います。在宅テレワークの体験は、働き方、家庭の在り方に大きな影響を与えるでしょう。例えば、通勤、もっと拡大すれば、転勤の意味することを変えるように思います。それは経営者にとってもそうで、広いオフィスのコストの意味が問われるでしょう。では、翻って、「コロナ経験は保育をどう変えるか?」について話し合えたらと思います。
 結論的に言うと、あまり議論は発展しませんでした。矢澤が、保育の場には子どもが「一人になれる」空間が少ない、一人で集中する場面が不足しているように思う、という意見を出しました。これに、石井先生が補足して次のように発言しました。確かにそういう点は自分も感じるが、その前提として関係性が成立していることが大切に思う。小さくなればなるほど、視覚・聴覚だけでなく、触覚や時には味覚をフルに使っての、「共振的・間主観的な関係体験」こそが、大切なのだと思う。これが保育の原点であると考えています。これを受け、H先生が、私の園は低年齢児なので、子ども同士が、また保育者とたっぷりと触れ合うことで信頼関係が築けると実感している。例えば、特に新入園児は、表情も乏しく、発語どころか声すら出ない子が多い。そうした子も、登園後、毎日日課にしている赤ちゃんマッサージや、体操、じゃれあい遊びをすることによって、だんだんと自分が出せるようになってくるという意見を出しました。矢澤は、2人の先生の指摘はもっともであるとしました。
 今回、発展させることはできませんでしたが、「コロナ体験の保育にとっての意味」は、それぞれが考え続ける必要があると結びました。