研究交流活動における新型コロナの影響

西村 美東士(研究交流部門長)

 コロナ下の「新しい生活様式」は、子育て学習やワークショップに大きなマイナスを与える。だが、そのような状況の中であっても、個人完結型の閉鎖的状況を打ち破り、多様な価値を受け入れ、新しい価値を創造し共有することを目指した「教育的意図」をもったICT活用によって、子育て現場の保護者、子育て支援現場の支援者、各領域の研究者の三者の能動的な協働による子育て支援学体系化を目指したい。

 日本子育て学会第12回大会シンポジウム(企画 日本子育て学会研究プロジェクト推進委員会・研究交流委員会合同)「テーマ:コロナ危機における臨床教育相談および子育て体系化への構想-子育てとケアの原理を求めて」において「コロナ危機におけるICTと子育て学習・子育て支援学の体系化」という話題提供を行う予定であるが、ここでは、その概要について報告したい。

 そこでは、コロナ下の「新しい生活様式」によって、保育等の現場で「人間の原点としての子育て観」が失われる危険、WS(ワークショップ)の中で(カードの配置のため)手を動かす、リアルな空間で共感と共有の時間をもつという可能性が制約される危険などを、「深刻な打撃」と指摘する。ただ、自分のペースで参加できるという点では、オンラインならではのメリットがあることは留意しておく必要がある。

 そのような状況の中で、われわれはICT(情報通信技術)を活用して、どのような子育て学習を進めてるかについて、第一に、「自分のペースで学べる」という良さを生かした個人学習の支援、第二に、身体性は弱まるものの、バーチャル空間の共有によって、ICTによる「ママ友づくりパパ友づくり」により、普段のママ友とは違う「異なる価値との交流」を行い、そこでの自己内・対他者対話が共生力を生み出すことの可能性を指摘する。また、そこでは、個人完結型の閉鎖的状況を打ち破り、多様な価値を受け入れ、新しい価値を創造し共有することを目指した「教育的意図」の重要性を主張する。シンポでは、校区を超えた小学校PTA会員の言わば「動員」された研究グループによって生み出された東京都T区「親子まちづくり研究」の成果を報告する。

 とりわけ私がICTに期待するのは、書き言葉による交流と合意形成である。そこで自己内対話と対他者対話が行われ、既存の解答を昇華した新しい解答を見出すことができよう。これについては、シンポでは、私の大学授業でのアクティブラーニングの成果とその分析について報告したい。

 これまで、本学会では、わが国の子育てに関する社会的課題を取り上げ、そのテーマに対して、諸学の各領域を超えて、保護者、支援者、研究者の三位一体で追求していく活動を続けてきた。

 そこでは、WS等によって、保護者の見解を含めた子育て課題の洗い出しと検討を行ってきた。そのことによって、それぞれのテーマ(課題)について、複数の専門領域を横断する検討と課題解決の方法が必要なことが明らかになった。このようなことから、子育て支援学体系化においては、それぞれのテーマについて、子育て現場の保護者、子育て支援現場の支援者、各領域の研究者の三者の能動的な協働による検討が必要だと考えられる。これまでのWSの成果等については、席上で報告したい。

 この体系化を成功させるカギは、保護者が「わが子」だけではなく「子育てのまち」に目を向けること、支援者が「わが園」だけではなく「全市的視点」をもつこと、そして研究者は自分の研究領域だけでなく、人々の暮らしや仕事ぶりの総合的観点から、地域の子育ての課題を臨床的に分析することだと考える。とりわけ研究者については、自分の最初の研究領域を本命とし、そこにアイデンティティを求める者だけでなく、総合的な研究を本命とする若手及びベテランの学会員の登場を期待するものである。