わらしべ会からの報告 その1 2021年3月

コロナの中で子どもたちの将来を考える

長谷川佳代子

 第1波(注1)のときは学校も休みでした。第2波(注2)のときは、乳幼児にはほとんど影響がなかったのですが、第3波(注3)のときは、「期間が長すぎる」と誰もが思いました。昨年のお盆も祖父母に会っていないのに、今年の正月もだめ。それは子どもを持った若い夫婦にとっては、過酷そのものです。

 注1) 第1波:2020年3~5月頃、4月がピーク。政府の緊急事態宣言は4月7日に7都道府県対象に発令、4月16日全国が対象に。全国の解除は5月25日。

 注2) 第2波:2020年7、8月頃、政府の緊急事態宣言発令は無し。

 注3) 第3波:2020年11月~2021年3月頃、政府の緊急事態宣言発令は1月7日に1都3県を対象に発令、1月13日に7府県を追加。2月2日に期間を3月7日までに延長。

写真①もみのき共同保育所(k市)遊ぶ子どもたち(2020年7月)


 第1波から第3波までの間、われわれの法人では陽性反応が出た人がなく、運が良かったと思います。しかし、濃厚接触者扱いは何件かありました。幸い陰性だったので、保護者の皆さんに迷惑をかけずに済みました。

 しかし、第1波の時には「小学校が休みなのに、なぜ保育園や学童クラブはやっているのか。」、「保育園が休みなら医療従事者も休めるのに」等と、お叱りの声が保護者の間から出たのです。また、市町村によって対応が異なることもあるので、他市の園や他の行政のことを引き合いに出されても困るのです。われわれは、各自治体の指示通りにしなければならないのです。保護者は開園しているかしていないかに翻弄されました。園が同じ市内にあれば自治体の対応は同じですが、われわれの法人のように異なる自治体に園がある(k市に2園、1園は学童クラブも併設、h市に2園)、兄弟姉妹もいる、市の外れに園があり、兄弟姉妹は他市にいる、学童クラブへの通所もあるなどの場合は、他の自治体の行政の様子がよく分かり、自治体と保護者の間に立たされました。そして、保育士もエッセンシャルワーカーとしてその間に立たされ翻弄されていったのです。保育士は現場に行かないと仕事にならないのです。リモートはできないのです。

 新型コロナがウイルス性であるということは分かっていました。ウイルスであるということは人間に依存して生きているので、人間を絶滅しては生きてはいかれません。お日様に当たり、紫外線を多く浴びるとかかりにくいと言われていましたので、いつも通り子どもには外で自由に遊んでいてもらいました。それにつき合う大人も屋外にいることが多いのでかかる心配はないと考えていました。また季節柄(ほとんど1年中すが)窓は開いているので、意識して換気する必要はありませんでした。

写真②木の実保育園(h市)給食と園舎 (2020年11月)


 しかし、春になっても新型コロナは一向に収まりませんでした。期間が長くなり、この頃になると保育士も疲れてきました。ゴールデンウイークまでの期間に保護者の心配も深まってきました。4園の園長には、毎週、保護者に電話して「育児のことで、今、困っていることを聞いて。」と伝えました。園長はそれぞれ電話をしていましたが、実際のところ、電話だけのやりとりでは細かいところ、ニュアンスまでは伝わりません。所詮、エッセンシャルワーカーは、職場に行かなくてはできない仕事なのだと痛感しました。職場に行って保護者と話をすることから始まる仕事なのです。保護者のその時の感情、思いなどを直に聞く仕事なのです。ゴールデンウィ―クも近いし、子どもたちが親と一緒にどこに行っているかわからない。親の中には会社が東京とか、電車に乗らないと仕事に行かれない人もいるし、保育園だけではコロナは防げない。」ということが保育士の間で問題になりました。1人親で仕事を追われる人もでてきました。国籍が違い、いち早く会社から首を切られる人も、会社が倒産する人もでてきました。しかし、皆、その時はそんなに深刻に受け止めていませんでした。すぐに次の仕事がみつかるだろうと思っていたのです。田舎なので、大家族も多いせいか、そんなに困る人はいませんでした。子どもたちの口からも「親の仕事が無くなって大変」という言葉はでませんでしたし、特に行動にも現れませんでした。

 しかし、この間、保育者は対応に追われ、大変だったのです。毎日毎日、三密はダメと言われても乳幼児には分かりません。発達途上の子どもと発達してしまっている大人の理解の乖離があるのです。それでも第1波で収束すると皆思っていたのです。だからそんなに影響は出なかったのです。

 緊急事態宣言は終わりましたが、一旦縮小して運営していた保育園はそんなに簡単には通常運営には戻れません。そして保育士たちは「かかるかもしれない。子どもにうつすかもしれない。私たちはどうすればいい。」、「子どもたちは無症状でたいしたことないかもしれないけど、土地柄おじいちゃん、おばあちゃんにもしものことがあったらどうしよう。」ちょっと中心部から外れると農家も多く、3世代同居も当たり前です。 そのことが、「自分たち保育士はコロナにかかってはいけない」という強い信念を産んだのです。

写真③桑の木保育園(h市)園舎全景と遊ぶ子どもたち(2020年12月)


「死」というものが近くにあったような気がします。当然、死を意識して働くことに疑問を感じ、辞めていく保育士も全国にはいたことでしょう。われわれの法人では、辞めていく人はいなかったのですが。

 第2波は乳幼児の生活にはあまり影響がありませんでしたが、第3波は季節柄、寒い時期に入りましたので、ウイルスは長生きしますし、これまでより、一層細かく気を使って対応しました。

 天井が高い事や建物が南向きで暖かいことで窓は開いていますが、昼寝のときなどは密にならないように体の向きを変えたり、消毒をしたりしました。大人のマスク姿も当たり前になりました。各園長によるお願い文やメールなども多くなりました。また、子どもたちの手洗いの場面が増え、給食時も密にならないように何気なく正面にならないよう工夫しました。「何故椅子を動かすんだ」という子もいました。

 長引いているので生活困窮者が出たり、精神的に不安定になるのはこれからだと思っています。

写真④わらしべの里共同保育所(k市)園舎と給食風景 (2021年2月25日)


 しかし、乳幼児は、学童のように、言って聞き分ける年齢ではないので、密も当たり前です。スキンシップが大事な年齢なのです。コミュニケーション力を育てなければならない。乳幼児期に、「人間って面白いよ!」と思えるよう、人と接し、関わるという子どもの経験を大事にしたいと思ってもできないのです。小さい子には経験がなくては分かりません。感覚というのは、肌感覚つまり経験から生まれると思います。しかし、マスクをしていなければならない、密を作ってはいけない。

 子どもたちは理解できないまま、生活が様々に制限され、自分自身でやりたいことをする経験をしていません。五感を通しての経験が不足しています。この子たちが大きくなる頃には、大人の言うことを一方的に聞くのが当たり前の時代になるかもしれません。子どもは自分の意思で、自分の思ったことをするのが大事だと思います。それが、自己肯定感を育てると思います。新型コロナ下の保育によって、自己肯定感の強い子を育てたいと思っている我々保育士の価値観が変わってしまうのが恐いです。自己肯定感が健全に育つかどうか心配です。子どもたちの将来が恐いです。