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保育のクロス・ロード 10

梅崎高行/細川美幸 往復書簡

掲載:2017年3月25日




あなたは、父親です
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 子どもの通う園の行事(運動会やマラソン大会)に保護者枠があります。
あなたは積極的に参加する?

梅崎  
今日は息子の通うこども園のマラソン大会でした。
子どもはぶっちぎりの1位。
負けじと私もお父さんの部に出場し,走ったのですが,残念ながら2位。
うーん,権威失墜?父親の背中を見せるのに,うまい言い訳がありますか?(苦笑)。
細川先生,悩める父親にアドバイスを!



細川  
積極的に参加する?答えはNO,です。だって,私,足遅いですもん。勝負にならないし恥ずかしい。
でもでも・・・, すごい!梅崎ジュニア!小さいのに,すでに父親を越えるなんて,立派です。

最近,学生の自分史作成にかかわっていて,感じるところがありました。『親を越える』というテーマです。
個人それぞれに中身がもちろん違います。
例えば,「(親のことを)ずっと否定できず,認めてもらいたい一心で今まできたけれど,'ああ,親も人間なんだな'と思えるようになってきて,親の否定的側面を受け入れることができるようになってきた」とか,「親が歩めなかった道を,気が付いたら自分が歩んでいる」とか,いろいろです。
自分自身もそうですし,学生を見ていても思うのですが,親って,越えたい・ぶつかりたい壁であってほしいな,と。
そして,一生懸命生きたうえで子どもに越えられる親,また,一生懸命勝負して親を越えられる子ども,そういう親子関係って,とっても健全だな,と思うのです。

梅崎さんの「負けじと」という心意気と勝負魂が,子どもを育てるように思います。
そう,心理療法のなかでも思うのですが,「対等」というキーワード,そして,ちょっとしっくりこないかもしれないけれど「勝負」というキーワード,この二つは人の育ちに関与するときにとても重要になってくる気がしています。
この二つを可能にする'しかけ(場)'として「遊び」があるように思います。
あ,ほら,思い出してください,二人で作ったKLC発達支援者版クロスロードのカードゲーム,そもそもそういうしかけじゃなかったですっけ?
梅崎さんって,地で健康的な子育てを実践されているんですよ,きっと。お父さん,かっこいい!!



梅崎  
慰めていただきありがとうございます(笑)。
今回,心から反省したのは,普段,偉そうに子どもに指図しているくせに,実際にやってみるとできないということです。
私はサッカー指導者の養成にも携わっているのですが,コーチを志す方々に課すのは,プレーすることです。
インストラクター役の私が行う指導で選手役を務めていただき,プレーしてもらいながら,「日ごろ選手に要求していることがいかに難しいか」を実感していただくのです。
そのようにして「言うは易し,行うは難し」を,身をもって知っているつもりだったのに,そうではありませんでした。まずはこのことを大いに反省しました。

それから,このような保育参加は育児の一部として,一般的には推奨されることだと考えています。
たとえば「イクメンを目指したいけれど,どうしたらいいかわからない」といったお父さんに,「たとえば保育参加とか,できることから初めてみてはいかがでしょうか」などとアドバイスさせていただくことがあります。
でも実際に自分でやってみて,保育参加が子育ての免罪符になるわけじゃないということを強く実感しました。
もちろん絶対に勝たなければいけないということではありません。イクメンデビューを目指されるお父さんが,忙しい仕事の合間を縫って保育所に駆け付けた。それだけで喜んでくれる子どももいると思います。
しかしウチの場合,自他共に勝つと思って参加しているわけです。それで負けたらがっかりさせますよね(苦笑)。
他でもない私が自分に失望してしまったのです。やはり参加するには勝たなければなりません。
少なくとも,子どもが認めてくれるような参加が求められるのだと思われました。やっているつもりの,子どもに甘えるような育児を見つめ直す機会になりました。

最後に,このように参加したからこそ,感じられた子どものすごさがありました。
大会当日まで,保育園では練習を積み重ね,息子は毎日1位の札を持ち帰ってきました。
それに対し,口では「今日も頑張ったな」なんて声をかけていたわけですが,実際に自分もそのコースを走ってみて,いかにここを駆け抜けることが大変かを実感しました。するとかける言葉も変わるのです。心からの賞賛になるのです。

というわけで,これからは「俺はもうすでにそれを経験してきたよ」というスタンスを捨てて,子どもが生きている今をリスペクトできる位置に身を置きたいと思います。
そうやって細川さんが書いてくださったように,子どもと,自分と,勝負していきたいと思います。