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アニミズム

勝浦 範子

掲載:2010年9月4日




 人形に話しかけて遊ぶ幼児は人形を生き物のように見ているのでしょうか?幼児は生物、無生物を区別せず、事物や事象のすべてを生命あるものとしているとピアジェは考え、これをアニミズムと呼びました。アニミズムはもともと精霊や霊魂などの存在を信ずる宗教観を指しますが、ピアジェは幼児の認知特性としてのアニミズムの存在を主張したのです。

 教育心理学の授業で学生たちにアニミズムについて意見を聞いたところ、幼児にアニミズムは「ある」という学生が32名、「無い」という学生が33名と拮抗していました。人形遊びの経験から、「自分も小さいときに人形に話しかけていたから、アニミズムはある」という意見、「話しかけはしたけれども、人形が返事をしないのは分かっていたからアニミズムはない」という逆の意見もありました。

 人形が夜動くと想像して怖かった、動かないはずと変わって分かっているのだからアニミズムは「無い」という意見の一方で、人形が夜動くと困るので、玩具箱に入れず、かばんに入れチャックで閉めていた経験から「ある」という意見もありました。人形といえば、先日テレビで人形が夜動いたり、話しかけたが子どもは怖がらなかったという例が話題に上り、出演者全員が「子どもには当たり前のことだから」と頷いていました。子どもは現実認識が大人とは違う、アニミズムの存在はピアジェだけの意見ではないようです。

 意見交換後学生たちに再びアニミズムについて聞いたところ、「ある」が13名に減り、「無い」が微増、分からなくなったのか無記入が増えました。

 意見の中にはアニミズムは単なる無生物への感情移入や愛着だというものがありました。これは大人にもあります。人形をゴミ箱に捨てるのは、躊躇うものです。最近のことでは、宇宙探査機ハヤブサが燃え尽きる前に、向きを変え、地球を見せてあげたそうです。これも擬人化した感情移入ですね。子どもの認識の大人との違いを示し、日本でも60年代から大きな影響を与えたピアジェですが、近年は疑問視される現象も多いようです。

【著者紹介】

勝浦 範子: 静岡文化芸術大学 教授