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『対人関係の発達心理学:子どもたちの世界に近づく、とらえる』

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著者:川上清文・髙井清子(編)(会員)、岸本健・宮津寿美香・川上文人・中山博子・久保田桂子(著)
出版社:新曜社
出版年:2019年
出版社書籍案内ページ:https://www.shin-yo-sha.co.jp/book/b472439.html

評者:繁多進(会員)


 私たちは他者との円滑なかかわりなしに、人間社会において適応的に生きていくことはできません。この対人関係の能力はどのように発達していくのでしょうか。あるいは、誕生時から人とかかわろうとする本能みたいなものを持って生まれてくるのでしょうか。微笑も泣きも誕生時から乳児にできる行動です。それらを使ってさかんにまわりの人々に働きかけているように見えます。そうすると、人とかかわろうとする生得的な特性みたいなものをもって生まれてくるということになるのでしょうか。本書を読み進めていきますとそのような興味が自然と湧き出てきます。本書は「微笑」と「泣き」、それから誕生時には見られないけれども、乳児期に生じてくる「指さし」と「利他行動」という対人関係の発達にとってきわめて重要な四つのテーマについて、観察を中心とした資料をもとに詳細な検討を行っています。そして、最後の章で中学生から高校生、大学生に至るまでの母娘関係の変化(発達)について、実験的観察法により得られた資料をもとに検討を行っています。

 この5つの章はそれぞれの専門分野の著者が担当しているのですが、本書のユニークなところは、編者のお二人がそれぞれの章の序説を分担して書いているという点です。その序説も堅苦しいものではなく、ご自身の経験を中心に、その章のテーマへの関心を高めるような書き方をしていますし、各章の執筆者たちもそれほど序説にとらわれずに上手に反応していて、全体として豊かなハーモニーを奏でています。

 比較行動学に精通した執筆者も多く、チンパンジーとの比較なども非常に面白いのですが、なによりも本書の特徴は、発達心理学の専門書でありながら、子どもの姿がありありと浮かんでくるということです。読みながら自分が保育園で子どもと接しているような錯覚さえおぼえます。「子どもの心をもっと知りたい」と思わせられる好著ですので、子どもとかかわっているすべての方々にご一読をお勧めします。

 


【評者紹介】

繁多 進: 白百合女子大学名誉教授