子育てコラム Column about Child-rearing » »タイトル一覧へ戻る



子育てのクロス・ロード 5

梅崎高行/細川美幸 往復書簡

掲載:2018年12月15日




あなたは親です。
子どもが学校に行った後、机の上に忘れ物をみつけました。
仕事に出るまでにまだ時間の余裕があります。
あなたは子どもの忘れ物を学校に届ける?

細川  
どうします、梅崎さん。
我が家は1年生。私と同じく、忘れん坊です。「えー、これを?!」というようなものを忘れます。
忘れ物がないような努力を(声かけや視覚支援など)してみましたが、今まで3回ほど、届けました。 さて、先日も忘れ物を見て・・・
時間がなかったら届けないけど、今日は持っていこうと思えば持っていける・・・という状況で
『忘れても大丈夫と思われては困る。本人が困ることが気づくことが必要。もう届けまい!』
『いやまだ1年生、管理は難しい。困るより学習の機会を保障しよう』
などと云々かんぬん、ぶつぶつ悩んだんですよね。。。

まあー、いたって、フツーーーーーーーーの子育てあるあるですけど。





梅崎  
 いただいたお題が私の家庭にとってもちょうどよかったので,いい機会をいただいた!と感謝しながら妻と話してみました。「忘れるのは本人が悪い。痛い目を見なければ治らない」と考えていた私は,妻による子どもの忘れ物に対するサポートは,おせっかいだと感じていたからです。

 私「子どもの忘れ物に,いつまで声をかけるつもり?」
 妻「中学生になるまで」
 私「なぜ?」
 妻「いまは勉強の方が大切だから」

 細川さんのクロス・ロードを読み,それから妻の話を聞き,「学習保障をしてやる」「勉強の方が大切」という考えに,割とあっさり納得しました。もう少し書きますと,少しずつ少しずつ,忘れん坊の本人に合わせて親が離れていくという感じでしょうか。
 「体育があるって言ってなかった?体操着入れた?」
 「昨日言ったでしょ?なんで昨日のうちに準備しておかなかったの?」

 毎朝,私の家で交わされる妻と娘(小学5年生)のやりとりです。きっと,こういうやりとりを繰り返して娘は,(忘れるという症状の改善はおそらく望めませんが)母親へは感謝しているのだろうなと思います。そしていつの日か,私にとって孫に当たる,娘の子どもに,母親となった娘が忘れ物を注意している場面に遭遇したら,言ってやろうと楽しみにしています。

「お前が言うな」(笑)。

 細川さんもぜひその日を楽しみに,あと6年間頑張ってくださいね(笑)。 




細川  
梅崎さん 
 「お前が言うな」
・・・あー,痛い(笑)。グサグサ刺さりますね。娘さんの前に,私がしっかり受け止めました。まったくその通りです。
梅崎さんのリプライで,いくつか,冷静に考えました。

①親→子,の場合,「お前が言うな」状況は,とてもよくあることだな,と。
 これは,保育者→子,教育者→子,コーチ→子,という状況では,ゼロではないけれど親子ほど無自覚ではないような気がしました。どうです?

②児童期の発達をしっかり勉強しなきゃな,と。
 生後すぐから赤ちゃんの発達は,2週間おきでもすごい変化で,細かくそれぞれの発達特徴があげられ,就学前までの子どもの発達と大人の対応というものは,ある程度自分も勉強してきたし,広く示されてもいるとおもいます。一方,就学後は,大きな壁として9-10歳の壁,というものや,前思春期,思春期,などというぐらいしか知らず,1年生と2年生の違いってなんだろう,とか,いろいろ自分の不勉強をあらためて気づかされました。梅崎さんの奥様の,「中学生になるまで(小学生の間)」というくくりも,何だか,すごく,興味深いな,と思いました。

③親の基準の修正
今回,梅崎さんと奥様のやりとりで,結果的に,梅崎さんの基準は修正されました。親になるって,こういうことの繰り返しだな,と改めて思いました。テレビは見せない!キャラクターグッズは買わない!○○まで◇◇しない!など,いろいろな価値観があっても,子どもの状況,周囲との関係のなかで,少しずつ,自分の枠が緩くなっていく。自分の軸がブレると,悩んで苦しくなるけれど,親がブレてくれることで,子どもが少し生きやすくなることがあるのかもしれない。親子の柔らかさや生きやすさ,世界の広がりにつながっていくことがあるかもしれない。そんなことをあらためて考えさせられました。

④「やりとりの継続」の重み
効果があるかないか,つまり,忘れ物が治るか治らないか,ということではなく,毎日毎日「何回言ってるの(言わせるの!)」というような親子の会話,そういう日常の継続に意味があるのだな,と気づかされました。それが,教育や治療の場面と少し違う,親子ならではの部分かもしれないな,と。よく,教師(保育者)が家の中でまで教師(保育者)で生きると,子どもは大変,と聞きます。そういう言葉を思い出しました。親子の間では結果は重要ではない。忘れ物がなくならなくても,関係は変わらない。親子は親子で,明日も明後日も,その先ずっと,親子。お金をもらって契約期間内に結果を出す仕事では,ない。・・・当たり前のことですが,あらためて気づかされました。なんだか,繰り返される'The変わらないやり取り'を,もうちょっと心の中で愛おしく思おう,と心の中があたたかくなりました。

たわいのない私のボヤキでしたが,梅崎さんが拾ってくださって,いろいろ気づきました。やはり,いいですね。気付きを与えてくれる誰か,の存在。感謝です。