第6回 合同就学前保育研究会 に参加しました —参加レポート—



2011年9月11日(日)午後2時より、市ヶ谷において、本学会、NPO法人保育・子育てアドバイザー協会、私立幼稚園教育研究会、「エデュ・ケア21」研究会共催で、内閣府村木厚子政策統括官(共生社会政策担当)を講師にお招きした研究会が開かれました。「子ども・子育て新システムの構築に向けて」という演題で、日本の子育て施策と少子化への対策、幼保一体化のこども園(仮称)についてのお話です。幼稚園・保育園関係者等50名以上が参加され、村木統括官の新しいシステムについての説明に、熱心に耳を傾けておられました。

 司会の子ども教育宝仙大学池田祥子学長の講師紹介、藤永保本学会理事長の挨拶に続き、1「子ども・子育てをめぐる現状について」、2「子ども・子育て新システムに関する中間とりまとめについて」と重要施策が講じられ、ふんだんな統計資料をもとに、現状と制度改革についての説得力ある解説がなされました。

1「子ども・子育てをめぐる現状について」

 結婚したい/子どもをもちたい、その願いが叶わない日本の現状、年収300万円が男性が結婚できるかできないかの境目となっており、30代男性の非正規雇用者の既婚率は2割台にとどまり、第一子出産後の女性の就業継続率は4人に1人という低率であること、日本だけがМ字カーブの解消に至っていない、子育て世代の男性就労者の長時間労働と家事・育児時間が1時間という実態、子育ての悩みの相談相手や困った時に預けられる相手がいないという母親の孤立化と負担感の増加、専業主婦家庭のほうが子育て不安感が大きいという事実、日本の家族関係社会支出の対GDP比の低さ等、次々と問題点が挙げられました。

 解決のための、子ども・子育て支援政策と労働政策(2つの分野と4本の柱)が示されました。「労働政策」分野として、①若年層の雇用対策、②ワークライフバランスのとれた働き方の実現、「子ども・子育て支援政策」分野として、①経済的支援(現金給付)、②親としての役割を果たしながら、子どもを預けて働きにいけ、相談機関も設けるという子育て支援サービスの充実(現物給付)を掲げられ、「子ども・子育て新システム」の提起へとお話が進みました。

2「子ども・子育て新システムについて」

 「" すべての子ども " への良質な生育環境を保障し、子ども・子育て家庭を " 社会全体で支援 "」、「新たな一元的システムの構築」というポイントが明示され、子どもの生活に近い基礎自治体(市町村)が実施主体として役割を担い、都道府県・国が重層的に支えるという構想が説明されました。実現にあたり、学校教育法による幼稚園の教育要領と、児童福祉法による保育所の保育指針が存するのを、国が「こども指針(仮称)」として、こども園(仮称)に指定される総合施設(仮称)が遵守すべき指針を一に策定すると方針が述べられました。

 また、子ども手当等現金支給と、地域子育て支援事業・こども園給付(仮称)の現物給付を中心とする給付設計の全体像も示されました。

 さらに、給付の中身となる「幼保一体化」(一元化との違いは、子どもの側で一体としてサービスが受けられるというイメージであり、就学前の子どもに " エデュケア " のしっかりした提供をめざすと説明がなされました)の目的として、①質の高い学校教育・保育の一体的提供、②保育の量的拡大、③家庭における養育支援の充実の3つを掲げられました。具体的には、給付システムの一体化と、施設の一体化が2本柱であり、文科省・厚労省の二重行政をなくすために法律を一本立てていく、とその道筋が示されました。また、もう1つの大事なしくみとして、待機児童問題解決のため、都道府県が行う「指定制」の概要も説明されました。法人格に多様な事業主体の参入を認めるかわりに、サービスの質をきっちり監視し、撤退規制・需給調整等行っていくというしくみです。

 加えて、新たな行政運営のしくみとして「子ども・子育て会議」(仮称)を国・地方自治体につくり、関係当事者が支援施策にかかわっていくことが検討されていると説明されました。

 問題となる費用負担に関しては、新システムの実施に向けたワーキングチームの要望を、「少子化に対処するための施策に要する費用」として、消費税収から充当される「社会保障四経費」に含み、社会保障・税一体改革のなかで、考えられていくことが担保されたと説明されました。

 質疑応答では、多くの質問が出され、村木統括官が応えるかたちで、新システムの理念を述べられました。親の責任をベースとして、子育てを社会がサポートする、支えあいのしくみを構築するという考え方に立っている、待機児解消が前面に出ているのは、就学前教育・対策が弱いので待機児問題が生じると考えているからであり、諸外国並みに日本も社会の基礎サービスとして、その財源を考えるべきときである、女性の働き方を社会がコントロールしようというのではなく、お母さんの望む働き方を実現できるよう社会がサポートするものだと、核となる考え方を示されました。行政の一元化については、「子ども家庭省」といった案が出ているが、当面内閣府で行い、文科省・厚労省と連携してあたっていると現状が話されました。子どもを長く預かるしくみより、長時間労働の親の働き方を改善してほしいという要望には、働き方の改善と、子どものための施策は、どちらが先ではなく、一緒にやっていくべきであり、親にかわって子どもをケアできる質のいい保育が、子どもの成長を支えてもいると結ばれました。

 5時の終了時刻を過ぎても、熱のこもった質疑応答が続きました。二元的であった子どもの保育を一体化する大きな変革に対しての皆さんの関心の高さが伺え、よりよい子どもの保育システムができていくようにというおもいを、会場で一にした研究会でした。なにより、新システムについて意見する言葉をもちえないこどもの立場を第一に考え、母親・保護者が、こどもをどこでどう育てるのがいいか、こどもや育てる自身にとってよいのか、がわかりやすく提示されていく必要があると感じました。


山田 由理子