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「幼保一元化」とは何か?

藤永 保

掲載:2010年4月15日




 自民党政権の末期、衆議院解散を控えて麻生首相が「幼保一元化」を選挙公約に掲げるよう指示したが、党内の幼稚園・保育所それぞれの族議員から異論噴出、一夜にして立ち消えになったという報道をご記憶だろうか。凡そいたるところへの族議員の浸透振りには改めて驚かされたし、これではとても就学前の子どもの成長を偏りなく考える政策視点を求めるのは難しいと痛感した。

 民主党への政権交代により、このような旧態依然の体制にもようやく反省のメスが入り始めた。幼稚園は文科省、保育所は厚労省の所管という二元行政を一つにする方策がいろいろ論議されているらしい様子は、時折報道され、果ては、子ども教育省の創設などの勇ましい掛け声も聞こえてくる。本当なら、日本では途方もない行政大改革だが、今はせいぜい期待半分というところだろう。

 自民党政権下で進められた幼保問題への施策は、いうまでもなく「認定子ども園」である。初めてきいたとき、私は幼保一元化への一つのステップかと期待の気持ちがあった。実際そういう説明もあったようだ。しかし、ことが進むにつれて、実態は大違いということが分かってきた。単に幼稚園と保育所を接木しただけの問題先送り、二元行政は相変わらずで監査が二重に入るなど使い勝手がとても悪い、などなど好評はあまり耳にしない。幼稚園の保育所化は急で、認定子ども園に入りたいと望むところも多いと聞くが、こんな次第でほとんど進展は見られないようだ。政治・行政世界では先送りは常道さといわれると、なるほど知恵者は多いと賛嘆するより他はない。

 知恵は、用語にも及ぶ。子ども園はよく幼保「一体化」だといわれる。一元化を避けて、しかし、実質的にはそれと同じと主張したいのだろう。その偏りを避けるために、民主党は「一本化」ということばを使うと、昨年末の共催シンポジウムに出演の小宮山洋子さんは述べていた。意図は分かるが、しかし、ここから用語の上でも大きな混乱が起こってきた。例えば、一元化は自民党の政策目標だったと考える人もいる有様だ。

 私も、「幼保一元化」は、誰がいつどのように使い始めたのかはよく知らない。しかし、その思想的源流は、城戸幡太郎らによる保育問題研究会(保問研)の運動にあったように思っている。城戸は心理学の出身者であり、一元化思想は発達心理学とも無縁ではない。誰か、一元化についての基本研究を志す人はいないのだろうか。そういう若手研究者の出現を望みたい。