新型コロナ感染状況下の子ども・子育てを考える

機関誌編集委員会情報提供編企画

情報提供編編集委員会は、日本子育て学会第12回大会で講演会・インタビューを企画し準備を進めています。以下に講演会・インタビューの企画主旨と講演概要をご紹介します。(総務部門長 石井富美子)

講演会とインタビュー

 企 画:日本子育て学会機関誌編集委員会情報提供編
 講演者:神山 潤(公益社団法人地域医療振興協会東京ベイ・浦安市川医療センター)
 講演者:小川勝利(社会福祉法人いるま保育会 いるまこども園)
 司 会:福島 玄(機関誌編集委員会副委員長)
 インタビュアー: 脇みどり(機関誌編集委員会情報編集委員)

<企画主旨>
 新型コロナウイルスの世界的な規模の感染拡大は、子どもや子育てに大きな影響を与え続けています。感染を防ぐために人との距離をとり、人と触れないように求められています。その対応は、子どもや子育てでは極めて困難で、子どもや保護者・支援者にストレスをもたらしています。ウイルスの感染拡大や子ども・子育てをめぐる事態をどのようにとらえ、乗り越えていけばよいでしょうか。  本企画では、お二人の学会員、医師の神山潤先生と、こども園理事長・園長の小川勝利先生からお話をうかがいます。また、講演に続くインタビューでは保護者会員をはじめ学会員からの質問や課題についても先生方からコメントをいただきます。


コロナと子どもとあなたと子育て:哲学しましょう

 神山潤:公益社団法人地域医療振興協会東京ベイ浦安市川医療センター

<講演概要>
 外来でのコロナ自粛中の子どもたちの様子からは子どもたちは人との触れ合いを求めているんだな、とつくづく感じます。成育医療研究センターが2020年4-5月に実施したアンケート結果からは、コロナ自粛では、外出ができず、運動もできず、スクリーン時間が増えて、生活リズムも乱れがちな子どもたちの姿が浮かび上がります。ではコロナ自粛にいい点は全くなかったのかというと、4月から通信制の高校に入学、オンライン授業をきっかけに、全国のいろんな友達と知り合えてうれしい、と見違えていた中学時代は不登校だった女の子がいました。一方で期待していた通信制高校で、課題の提出のみ求められ意欲を失い、また昼夜逆転生活に戻った男の子もいました。自粛中には友達と会えない、遊べないで寂しい、という子どもたちが少なくなく、多くの子どもたちにとって学校は楽しい場所のようで、少し安心しますが、一方登校がなくかえって落ち着いた子どもたちも少なくありません。先生や周囲の方々とうまくいっていなかった学童生徒さんの中にはこのような方も相当数いました。なかなか学校というのは難しいところです。コロナ禍はこれまで誰も経験したことのない事態です。実は誰も正解を知らないのです。しかし成育医療研究センターが2020年6-7月に実施したアンケート結果からは、答えを教えてほしい、という保護者の声が上がっています。酷なようですが、だれも正解を知りません。自分で考えるしかありません。今まで自分で考えることをする機会がなかったので、極めてつらいことですが、自ら考え、哲学するしかありません。
 「人間は偉大」と宣言したルネサンス以来、われ思うゆえにわれありと、人類中心の視点しか見えなくなり、おごり高ぶり、謙虚さを失った人類に、コロナが鉄槌を振り下ろして、今こそが変革の時であることに気づかさせてくれたのかもしれません。天動説から地動説に知識を変換させてくれたルネサンスでしたが、人類の思考回路は未だ天動説(人間中心)のままであるのが現在です。この機会をいいチャンスと捉えて、様々なことを真剣に掘り下げて考えてみようではありませんか。哲学しようではありませんか。本当の意味で、考え方を地動説に変換できるいい機会をコロナは与えてくれたに違いありません。見直してみる事柄は周りにたくさん転がっています。コロナ以前の常識(満員電車、渋滞の中出かける行楽地等々)は異常、と割り切るのも考え始めるいいきっかけになるかもしれません。
 哲学しましょう。


新型コロナウイルス感染による「新しい生活様式」での子育て・保育:
人類として赤ちゃんの健全な育ちを保障するには・・・

 小川 勝利(社会福祉法人いるま保育会 いるまこども園)

<講演概要>
 現在、地球上には様々な生物が生存しています。それぞれの祖先を何百万年も遡ると、私たち人類と起源をともにする動物も数多く存在します。系統が最も近いと言われているのがチンパンジーですが、その容姿や子育ての方法も、人類とは異なります。では、私たち人類の特徴とは何か?他の動物と何が異なるのでしょうか?どのような生存戦略に成功し、地球上でこのような繁栄を遂げているのでしょうか?
 今まで私たちの祖先は、火山の爆発や気温変化、隕石の衝突など、様々な自然の脅威にさらされてきました。また、肉食動物から襲われる危険もありました。過酷な環境下、生き物は自分たちの遺伝子を子孫に残すために様々な戦略を取りました。ある種は、肉食動物と戦うための強い力と優れた運動能力、更に、鋭い歯や爪など敵と戦うための武器を進化させました。またある種は、敵が追いかけてくることができない場所で生活する能力を得たものや身を守るために皮膚が硬くなったものもありました。
 そう考えると私たち人類は、体はそれほど頑丈でもなく、運動能力もさほどではありません。皮膚は柔らかく適度な皮下脂肪を備え、走る速度は極めて遅いです。牙もなければ爪も柔らかく、体にはさしたる武器も備えていません。このような動物が一匹で大草原を歩いていれば、うってつけの餌にも係わらず、どうして生き延びることができたのでしょうか?以外にもそれは、お互いが「協力」するという戦略をとったからだと言われています。「仲間」で社会を形成して、助け合うことで生き延びてきたのです。一人ひとりは弱者であった私たちの祖先は、先ず家族で暮らし子育てをはじめ、そして家族が次第に集まり村(ムラ)が形成されていきました。小さな社会の出現です。このように、社会を形成し共同で子育てをしていく中で、人類はコミュニケーション能力を持つようになり、赤ちゃん自身も社会の一員となるための「社会脳」を自ずと育んでいき、その中で、共感力や感情をコントロールする力、自己抑制力などの「非認知能力」を身につけていったと考えられます1)。ここからも推測できるとおり、人類の赤ちゃんは、人との関わりなくしては、「社会脳」の発達、即ち「非認知能力」の獲得はあり得ないと言うことです。
 2020年5月4日新型コロナウイルス感染症専門家会議からの提言を踏まえ、新型コロナウイルスを想定した「新しい生活様式」実践例が示されました。主な内容は、①他者と身体的距離を確保する、②三密を避ける、③会話は真正面を避ける、④マスク着用・・・というものです。これは、私たち人類の赤ちゃんの育ち、即ち「社会脳」を育む上で、必須としている環境をことごとく奪い去るものです。
 仮に、人との関わりをなくすためWebなどの仮想空間での対応は、多くの経験をもち完成された脳を持つ大人にとっては、便利なツールとして利用されていくというのです。大人の場合は、Webでのやりとりを過去積み上げてきた経験と対比させることができるからです。仲の良い友達とのオンライン飲み会を楽しいと思えるのも、過去その仲間との多くの対話や関わりの経験から、数々の状況を交差させ楽しいと思えるのだそうです。一方、経験の乏しい乳幼児は、現実空間で保育士さんやお友達の笑い顔、肌のぬくもり、ときにはお友達とのおもちゃの取りあいなど、先ずは基盤となる実体験が必要です。オンライン飲み会は成立しても、オンライン保育は効を奏しないようです。
 このような状況の中、私たちはどのように保育を考えていけば良いのか?目の前に存在する課題を取り上げながら、お話をさせて頂きたいと考えております。