わらしべ会からの報告 その2 2022年3月

長谷川佳代子氏インタビュー

新型コロナ下の2年間:子どもたちの様子・発達への懸念


Q:現在、新型コロナオミクロン株が蔓延していますが、休園という事態はありましたか?

A:オミクロン株は感染力が強いものの、重症化することは少ないためか、熊谷市でも東松山市でも、行政から、休園の要請はありません。保育士はマスク着用、3歳以上児もマスク着用するよう指導されていますが、子どもたちが動きまわるときにはマスクを着用させていません。

Q:それでは、園の様子は比較的安定しているのでしょうか? 卒園式はどうするのですか?

A:まだ決めていません。成り行きですね。事前に卒園式を取りやめと決めたのは東日本大震災の年だけ です。あの時は放射能汚染の問題がありましたから。

Q:そうでした。ちょうどあの頃訪問した埼玉県南部の保育所でも放射能汚染が問題になっていました。ところで、3回目のワクチン接種は進んでいますか?

A:あまり進んでいません。オミクロン株は感染力が強く、家庭内感染が多いので、自身の感染を含めて 保育士が心配している様子はあります。昨年度はこの辺り、埼玉県北部では感染者はあまりいなかったのに、休園やら3密対応などで大変でした。何だか巻き込まれてしまった感があります。行政もどう判断し、対応したらよいのか、手探りだったのだと思いますが。
保育園では、子どもたちが元気になるような生活をしている、免疫力も高めていると思うのに、休園というのは何だか園が否定されたような、そんな感じもあります。

Q:およそ2年間のコロナ対応生活は子どもたちにどのような影響があったのでしょうか?1年前に寄稿していただいた草稿には「密を避け、マスクをしろというが、 乳幼児はスキンシップが大事な年齢であり、コミュニケーション力を育てなければならない。子どもたちは理解できないまま、生活が様々に制限され、自分自身でやりたいことをする経験をしていない。五感を通しての経験が不足しており、この影響が懸念される」と記されていましたが。

A:そういえば、3歳になった子どもたちが大人しい。ハチャメチャをしない。大人の顔色を見て、指示待ちしているような気がします。コロナ下の生活は0,1,2歳児への影響が大きいと思います。コミュニケーションの基礎を作る時期から密を避け、マスクをしている保育士と関わっているのですから。表情1つでも、情報は目からだけ。相手を理解する手掛かりが少ない。相手から様々な情報を得る機会があまり無かったのですから、コミュニケーション能力、判断力が育たない。それが、大人の顔色を見ること、大人しさにつながったのかもしれない。

Q:なるほど。マスクでは目からの情報しかない。口は笑っているけど、目は笑ってない。やさしい言葉かけがあっても、抱いてはくれない。体は拒否している。様々な情報が発せられ、逆方向の情報もある。様々な情報を受け止め、判断し、どう行動するか、その経験が少ない。目は笑ってないけど、まあ許されるのではないかと判断して、行動するとか。

A:そう。意識していなくても、日常の保育士との関わりの中でそのような力が子どもたちには育っている。でも、マスク下の生活では相手を理解し、判断し、行動するための情報が少ない。そのためコミュニケーション能力が育っていない。自信を持って行動できない。いちかばちかやってみる勇気をもてない。本気で叱られたり、真に受け容れられたりする経験が少ない。それらが、子どもを大人しくするのかもしれない。

Q:何年も前ですが、わらしべの里に見学に行ったとき、子どもたちが生き生きと遊んでいた。表情が豊かだった。自分たちで、昼食の豚汁も作っていた。大人の顔色を見る様子はなく、自信を持って堂々と行動していた。密を避け、マスクの生活ではあの力が育ち難いのだと改めて思いました。

A:3密を避ける保育環境の中で、0、1、2歳を過ごした3歳児が大人しいという姿に衝撃を受けました。子どもの大人しい姿をとらえて、子どもは順調に育っていると思い、そこに潜む育ちの歪みを、とかく保育者も、親も、社会も見逃しがちです。今後、大人しい子どもの姿は、長い目で注視していかなくてはならないと痛感しました。

(インタヴューアー:新型コロナ特集 編集委員 勝浦範子・石井富美子)