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『ちいさい言語学者の冒険 子どもに学ぶことばの秘密』

著者:広瀬友紀
出版社:岩波書店
出版年:2017年
出版社書籍案内ページ:
https://www.iwanami.co.jp/book/b281696.html

評者:高橋千枝(研究者会員)
投稿日:2025年2月2日

 私たちはどのようにことばを覚えたのでしょうか。助動詞や助詞はよくわからなくてもおしゃべりはできます。私たちはことばを身につける過程でどのようなことをどのように理解しているのでしょうか。なぜ子どもは「とうもろこし」を「とうもころし」と言ってしまうのでしょうか、子どもは「は」にテンテン(濁点)がつくとどう発音しようとするのでしょうか、本書では子どものことばを獲得する過程を「ちいさい言語学者の冒険」として、日常における子どものことばあるあるを取り上げながら楽しく解説しています。

 例えば大人は「うんち」を「う」「ん」「ち」と3つの文字で捉えますが、子どもは「うん」「ち」と子どもなりの区切り方で捉えます。「おうさま」は「おう(お)」「う」「さ」「ま」です。なので「おうさま」の「う」はいらないと考えるのだそうです。また、子どもは覚えたてのことばをいろいろなカテゴリーで分類し整理しています。「ワンワン」を覚えると犬も猫もワンワンです。そして自分の手持ちの規則で何とか表現してしまおうとするのだそうです。ですから大人が「○○じゃなくて□□でしょう」と言っても修正しないのです。大人は「真似をすればいいだけなのに」と思うでしょう、しかし子どもは上記のような理由からことばを教えられても覚えないのだそうです。もちろん真似て覚えることもしますが、子どものことばの発達は人のことばを真似ることによってのみ身につけるのではないようです。

 著者は「ことばを情報伝達の手段として使うだけではなく、ことばそのものの形式・規則やその役割に関する無意識の知識への「気づき」を意識の上にとりあげる力、それを客観的に見つめ、時にはそれをいじって遊ぶことのできる能力。この力を育て、使うことにより、子どもたちのことばの旅はより豊かなものになっていきます」と述べています。大人は子どもがことばを覚えはじめると、たくさんのことばを覚えて欲しいと思い、子どもに音でそして文字でことばを教えると思いますが、子どもがことばを覚えはじめたら大人はこの子どもの力を子どもと一緒に楽しんで欲しいと思いました。この本の著者も最後にちいさい言語学者とともにことばの旅を楽しむことを勧めています。

 「ワンワン」を覚えると全てがワンワンになることを「過剰拡張」という一方で、ある語の意味として、それが指しうる意味全体のうち、より限定的な一部としてしか認識しないことを「過剰縮小」と言い、著者ご自身の経験として「関東炊き(おでん)」を食べながら「おでんが食べたい」と言っていたエピソードを用いて説明をしています。本書はみなさんが思わず「そうそう、あるある」と思ってしまうエピソードがたくさん掲載されており、楽しくことばの発達について学べる本だと思います。


【評者】

高橋千枝(東北学院大学文学部教育学科准教授)


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