市民参加型の、新しい学会のかたち。

『子リスのアール』

作・絵:ドン・フリーマン(山下明生・訳)
出版社:BL出版
出版年:2006年
出版社書籍案内ページ:
https://www.blg.co.jp/blp/n_blp_detail.jsp?shocd=b0205

評者:鈴木光海(会員)
投稿日:2026年2月22日

「お母さん」って難しい…でも、ほんとうに尊い!―子どもの自立をうながす子育てに関する一考察―

子どもたちが通う小学校で不定期に行われている、朝の読み聞かせボランティアに参加させていただいています。評者自身も子どものころから絵本が大好きであり、わが子たちもまた、高学年の子もなお絵本の世界を愛してくれています。また、園や学校に親が来るという出来事は、評者が子どものころも、誇らしくうれしかったものです。子どもたちが求めてくれる限りはその喜びをと思いながら、朝の教室に向かいます。

『子リスのアール』は、ボランティアのリーダーさんからご教示いただいた一冊です。配色が絞り込まれ、まさに「Less is more」!な豊かさが感じられるすてきな絵本です。この物語は、お母さんリスが息子のアールに「そろそろ自分でどんぐりを見つけたら?」と語りかけ自立を促すところから始まります。読み聞かせの場では「自分でできること」が増え、自立の入り口に立つ二年生たちが、自身の成長や経験と重ね合わせるように、熱い視線で物語を追ってくれました。読み進めるうちに、一人の母親として、そして子育て研究者として、激しい動揺と深い内省を突きつけられました。

とくに心がズキズキしたのは、お母さんリスの峻烈な「干渉」です。「言っておきたいことがあるの」からはじまるお説教には、毎回どきっとさせられ、教室の一番前に座っていたお子さんやわが子とも都度、顔を見合わせてしまいました。友人の女の子ジルが、アールに「くるみ割り器」や「どんぐり」「スカーフ」をプレゼントしてくれますが、お母さんはそれを「アールをだめなリスにする」とはっきり拒絶し、あまつさえ「返してきなさい」と命じます。

これは明らかな「境界(Minuchin,1974)の侵害」ではないでしょうか。アールが友人から受け取った好意や、彼自身が「いいな」と感じて選んだ選択を、親の価値観で「こんなもの」と否定してしまう。それは、子どもが自ら感じ、判断する力を根こそぎ握りつぶしてしまうことになりはしないか。親が良かれと思って放つ正論や先回りした心配は、子どもの可能性を破壊する「言葉の爆弾」や「ミサイル」になり得るのではないか。私自身、日々の生活の中で、わが子の判断力や創造性をなぎ倒していないか。内心、わが子たちへの懺悔の想いもこみあげてくるものでした。

しかし、物語は親の予測や想像をはるかに上回る展開を見せます。アールはジルのくれた「赤いスカーフ」を、「スカーフを巻いたリスなんているの?」というお母さんの言葉は受け止め落ち込みつつも、自分で首に巻くのです。そしてその赤色が結果的に「牛」を興奮させ、絶体絶命の危機に遭遇します。親から見れば、それこそ「ほら、余計なものを身につけるから」と言いたくなる失敗かもしれません。けれども、この「災難」こそが、アールの自立を決定づける鍵となりました。

牛に追いかけられた衝撃で、大量のどんぐりが木から落ちてくる―。これは計画通りの成功ではなく、友人からのギフトと自身の判断、そして偶然が重なり合った先にある「創発(Valsiner,2024)」的な結果です。

ここでまた気づかされるのは、親子の絆の圧倒的なダイナミズムです。親が言葉のミサイルをぶっ放そうとも、子どもたちはその親に喜んでほしくて、褒めてほしくて「不死身の、けなげなエネルギー」でぶつかってきます。アールは否定され、危機に晒されながらも、特大のどんぐりを持ってお母さんのもとへ帰ります。お母さんの「おいしい!」はアールにとってどれだけうれしかったことでしょう。子どもは親が思うよりずっと強く、そしてどこまでも親を信じ、愛そうとしてくれる。このパワーの強さは、子育てをめぐる多くの心理学的構成概念(たとえば非認知能力や実行機能など)の研究や望ましいとされる価値(子どもたちのそれらを育むための、研究結果に基づいた子育てハウツーも含む)を簡単に凌駕していきます。心身ともに保護する主体は大人ではなく子どもの方で、大人は護られゆるされている方(保護されている側)なのではないかとすら思えてきてしまいます。そうした強いパワーがはたらき合うからこそ、親子はときに衝突し葛藤を抱えながらも、想像を超えた未来を創り出していけるのではないでしょうか。

また今日の多様性・共生社会において、「だめなリス」なんて一人もいません。くるみ割り器を使うリスやスカーフをまいたリスが当たり前になるかもしれないし、今の大人には想像もできない新しい方法で未来を創造する子どもたちもいるはずです。だからこそ、大人の「余計な一言」で子どもの可能性を奪わぬよう、彼らが自分なりの「赤いスカーフ」を巻いて飛び出していく姿を、ただ信じて見守る存在でありたいとも思わされました。子どもたちの愛情に、絆に、親として背いてはいけないと改めて考えさせられる絵本でした。

読み聞かせの教室を出た後、アールが物語の最後に自分のために一粒のどんぐりを手にした瞬間と重ねて、評者の心もあたたかな満足感で満たされていました。わが子が、そしてすべての子どもたちが、自分のための「一粒」を誇らしく味わえる日が来ることを、切に願います。そして、そんな風にアールを不器用ながらもすてきに育てたお母さんのことも「すごい!よくやったね!」とつよく抱きしめたい想いになりました。


【評者】

鈴木光海(東北大学)


Share the Post:

Related Posts