著者:中川李枝子
出版社:新潮社
出版年:2018年
出版社書籍案内ページ:https://www.shinchosha.co.jp/book/339131/
評者:高橋千枝(会員)
投稿日:2023年12月23日
本書には「いやいやえん」や「ぐりとぐら」などの作者である中川李枝子氏の保育士(保母)時代のエピソードを通して、子ども達の素晴らしい力や子育ての楽しさが描かれています。「いやいやえん」や「ぐりとぐら」が誕生した理由もこの本を読むとわかります。中川氏はこの保育所に勤めなかったらこれらの物語は誕生しなかったとも述べています。
子どもの豊かな表現や予想もしなかった言動に大人達はいつも驚かされますが、この本の冒頭にも書かれているように、それは子どもへの最高の褒め言葉である「子どもらしい子ども」だからこそのエピソードであり、中川氏の表現豊かな絵本の世界は、子ども達にとっては当たり前の世界なのだと中川氏は述べています。子どもは空想と現実の世界を行ったり来たりしています。月にロケットが行くこともわかっている一方で、月にウサギがいるということも信じていますし、大人からクリスマスプレゼントをもらうことを楽しみにしつつも、サンタクロースがクリスマスにやってくることも信じて喜びます。子ども達にとっては当たり前のそのような世界を中川氏は毎日のように経験していたからこそ「ぐりとぐら」がうまれたのだと思いました。
また子ども達にとって遊びは本分であり、生活であり、そして学習であるとも中川氏は述べています。子ども達は単純により楽しく遊ぶためだけに、時には我慢をし、相手の気持ちを尊重し、協力や助け合い、そしてケンカもするのだと述べています。そして子ども同士で約束を取り決め、ルールが出来上がるのだそうです。中川氏は17年間という保育所生活で子ども達からいろいろなことを教わったと述べており、何か解決しなければならないことに直面したら子どもを指導する前にまず子どもをよく観察し、そこから解決の道を探り出す方法もあるのではないかと提案しています。
中川氏は「本の読みきかせ」についても述べています。中川氏は「読み聞かせ」という言葉には「読んで聞かせる」「言って聞かせる」という感じがあって好きになれないため、「子どもと一緒に読む」と表現するそうです。本を読んで子どもが喜ぶとお母さんも嬉しいし、お母さんが嬉しいと子どもも嬉しい、ワクワクもしんみりも楽しいひとときとして大切な時間であると述べています。評者が幼稚園や保育所を訪問すると、先生方と子ども達が絵本を読んでいる場面によく遭遇しますが、子ども達がドキドキワクワクしながら絵本の世界に引き込まれている時は必ずと言っていいほど先生もドキドキワクワクした表情で絵本を読んでいます。中川氏のエピソードを通して子ども達に寄り添うということがどういうことなのか少しわかったような気がします。
【評者紹介】
高橋千枝(会員)