希望の保育実践論シリーズ1/~自分の声を聴きとられる心地よさ 多様な声を響き合わせるおもしろさ~

著者:加藤繁美
出版社:ひとなる書房
出版年:2023年
出版社書籍案内ページ:https://hitonarushobo.jp/books/books-2608/
評者:持橋亜紀(会員)
投稿日:2025年11月24日
「希望の」保育実践というシリーズ名を冠した本書は、子どもとのやりとりに日々苦戦し葛藤しながらも、よりよいかかわりを考え続けている保育者の実践記録がちりばめられている。
昼寝の時間になかなか寝ない3歳児のタツキくんとノブくんへの対応に悪戦苦闘し、「完全になめられている」とショックを受ける新人保育者——。
無言で友だちのつくったブロックやおもちゃを壊し、そばにいる子の頭をたたいてまわるミキオくんに、もうやらないと約束させようとする保育者―—。
保育者なら誰しもが思い当たるようなさまざまな実践記録をもとに、子どもたちとの生活の中でしばしば起こるこうした「問題行動」と、「子どもの声を聴きとること」の関係性を紐解いていく本書は、まさに保育現場にいる私たちが待ち望んでいたものだ。
本書の中で筆者が述べているように、日々頭を悩ませるのは「保育の理想」と「現実とのギャップ」だと思う。
多様性を認める、とひと口に言っても、個々の主張を認めるだけでは保育は崩壊してしまう。多様性肯定の理想の中で行き詰まりを感じてしまう保育者に、著者は個―集団の構造をわかりやすく解き明かしていく。
まずは、現在の課題はおおきく4つあるという。
一つ目は、子どもの「声」と保育者の「願い」との間に生じる対立関係への対応。
二つ目は、子どもの「自由」と保育の「自由」をどう位置づけるかという問題。
三つ目は、多様性を重視する思想と「子どもの声」の関係。
四つ目は、これまで保育実践の前提と考えられてきた「子ども理解」の問い直し。
著者は、これらの課題を解いていく鍵概念として、「子どもの声」をあげている。
ここでいう声とは、音声としての声だけではなく、無意識に表出されるほほえみや、自然に出てくる不快の表情、描画や造形作品に込められたイメージの世界などもすべて大切な子どもの声に含んでいる。
そのうえで、子どもの声を聴きとる保育の大切さを説き、これからの保育は「関係創造的実践」で行うことに大きな意味があるという。これは保育者から子どもへの指導という一方的なかかわりとは対照をなす概念で、子どもとの対話によって関係を構築していく方法である。そしてこの対話を支えるのが「対等性」「事実主義」「葛藤原理」という3条件であるという。最後の「葛藤原理」について、子どもたちが葛藤することは成長することだと捉えて、「子どもは外から働きかけられて自分を変える(発達させる)存在ではなく、あくまでも自分自身の内面のたたかいをへて発達する存在」だと著者は述べている。
では、対話によってどのような関係を構築していくのか?
その答えのひとつが、子どもたちは「意味をつくる主人公」として向き合う、というものだ。子どもの声を聴きとる、といっても、聴きとった声をどのように意味づけするかは、保育者によって異なる。そして、多くの「日本の保育者は、頭の中では「みんなちがってみんないい」と多様な子どもの存在を肯定的に理解する思想を持っている」のに、「いざ子どもを前にすると、とたんに「みんな同じがじつはいい」という感じで、みんな一緒に行動する方向に体が動いてしまう」という。筆者はこの現象を、保育者自身が「みんな一体主義」を重視する学校教育の中を懸命に生きてきたことと無関係ではない、と論じる。そのうえで、そうして体に刷り込まれた当たり前の感覚を克服することが必要だと訴える。
多様性を認め合いながら集団をどのように見ていくか——という今日的な問いかけに対して、集団で過ごすことの本質は何か、を紐解いていくと、ついには保育者自身の人間としての生き方・あり方まで深く追求することになる。それでも、実践には常に希望をもってほしいと願う著者の様々な方法論が語られる。
この11月に、とうとう希望の保育実践論シリーズ第2弾カリキュラム編が刊行された。本シリーズは、現場に生かす理論書として必携の書となろう。
【評者】
持橋亜紀(大和すみれ幼稚園(埼玉県)・成増すみれこども園(東京都)園長)