市民参加型の、新しい学会のかたち。

『本が語ること、語らせること』

著・装画:青木 海青子
出版社:夕書房
出版年:2022年
出版社書籍案内ページ:
https://www.sekishobo.com/honkata/

評者:久米 隼(会員)
投稿日:2026年3月15日

 本書は,奈良県東部に位置する東吉野村で著者夫婦(&犬猫2匹)が築70年の古民家を借りて運営する私設図書館「ルチャ・リブロ」での実践から紡がれたエッセイ集である。

  著者は同館の司書として来館者から寄せられる様々な相談に乗ったり,悩みに一緒に向き合ったりしている。その相談は一般的なレファレンスサービスを超え,来場者から寄せられる悩みや相談に丁寧に耳を傾け対し「本」を介して相談に応じ,多くの人を支えてきた。

 本を介して他者との関係性を形成し,人が人として生きていくことを支える営みとして機能する様子を描き出しているようにも感じる。

 既にお気づきの方も多いかもしれないが,本書は子育てについて直接的に論じている書籍ではない。しかし,エッセイの形式をとりながら語られている人々の悩みと向き合い方,他者と本を介した対話,人々がそこから癒され,回復をしていく姿は,悩みの尽きない子育て,様々な大人がかかわる子育て,生涯にわたる子育てにおいて,多くの示唆を与え,私たちが探求している「子育て学」にも接続も可能であろう。

 最も示唆的であるのは,著者が「答えの提示」よりも「問いの形成」を重視する姿勢である。子育てに携わる人や,子育て中の人にも様々な不安や葛藤,自己効力感の揺らぎなど,言語化しきれない思いや複雑な感情を抱えている人も多いのではないだろうか。

 本書では,著者が図書館において,その語りに即時の助言を返すのではなく,本を媒介として語りの文脈を整え,相談者が自身の経験を再解釈するための空間をつくる。このアプローチは子育てでいう「伴走型」などと高い共通性ということもできるだろう。

 本書は,所々で著者の生い立ちにもふれている。子どもの頃から事あるごとに本に助けられたとし,読書を「知識の獲得」ではなく「関係性をつくる行為」と捉える著者の視点は,様々な人がかかわる子育てにおいて求められる共感的・応答的な関わりやコミュニケーションにも対応している。

 先にも述べたように,読書を媒介とした支えが子育てにどのような効果をもつのか,理論的枠組みには触れられてはいない。それでもなお,本書が示す実践は,支援者の姿勢や地域の子育て環境を再考する契機を提供し,子ども・保護者・地域を結ぶ読書支援の新たな可能性を提示している。子育てを社会的に支える仕組みを考える上で意義深い一冊である。


【評者】

久米 隼(武蔵野短期大学)


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