市民参加型の、新しい学会のかたち。

『ぼくのニセモノをつくるには』

(絵本)

著者:ヨシタケシンスケ
出版社:ブロンズ新社
出版年:2014年
出版社書籍案内ページ:https://www.bronze.co.jp/books/post-97/

評者:草山太一(非会員)
投稿日:2023年3月4日

 もしも自分自身のことを相手に伝える必要がある場合、どのようなことをお話されるでしょうか?

 ストーリーは、宿題や手伝いなど、やりたくない事ばかりで気が滅入っていた主人公が、ロボットに任せることを思いつくところから始まります。お小遣いを全部使って、お手伝いロボットを購入した主人公は、家までの帰り道で、身代わりであることがバレないように、ロボットに自身のことを詳しく教えはじめます。名前などの属性や外見上の特徴だけでは不十分とロボットから指摘を受けた主人公は、自身のことを他者に説明する難しさを感じつつ、自己を内省し、誕生から現在までを振り返ります。好きなことや嫌いなこと、さらに取り巻く周囲の人との関係において、自身がどのように捉えられているかなど、様々な考えを膨らませます。考えれば考えるほど、自己を捉える視点は多様となります。これらの思考プロセスを通じて、自分は唯一無二の存在であり、このような複雑な自己をロボットが真似ることなどできないと考えたところで、家の前に着きます。

 果たしてロボットは身代わりとなることができたのでしょうか?結末は、読んでからのお楽しみに取っておきます。クスッと笑える内容やほのぼのしたタッチのイラストは、子どもだけでなく、親子が一緒になって楽しめるでしょう。自己の存在を考える機会として、ぜひ主人公と同じように「ぼくは〇〇」、「わたしは〇〇」と、〇〇に入る言葉をたくさん列挙し合ってみてください。プロセスを通じて、様々な視点で自己を振り返り、それぞれにお互いが掛け替えの無い唯一の存在であることを実感いただければと考えます。主人公が悩むように、改めて自分自身のことを他者に説明する難しさを体験できますし、自分が他者からどのように受け入れられているかについて考える作業はとても大切です。

 鏡に映った自分の姿を自分と認識できるのは、概ね2歳ぐらいといわれています。そして、他者に対する気遣いが認められはじめるのも、この時期だと考えられています。同時創発仮説と提唱されていますが、自己を知ることと、他者に対する向社会的行動は、ほぼ同時期に現れます。自己理解に、他者との比較は必要不可欠です。また相手のことを知るためには、自己と区別できなければなりません。「自分を知ること」と「相手を知ること」の相互関係によって、さらに自分のことや相手のことに関心が向くようになるのです。

 面倒なことをロボットに任せるというお話としては、国松俊英(作)・藤本四郎(絵)『宿題ロボットてんさいくん』(偕成社、1983年)もお勧めです。私が小学生のときに出会った児童書ですが、宿題を代行してくれるロボットがいたらどんなにいいかを妄想する一方で、何のためにするのかを考え直し、宿題は自分でするべきと改めました。「人のふり見て我がふり直せ」といいますが、本に登場する人物を通じて自分の振る舞いについて考える機会はとても多いかもしれません。自己を見つめ直すキッカケとしていかがでしょうか。


【評者紹介】

草山太一(帝京大学教授)


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