著者:谷生俊美(日本テレビ映画プロデューサー)
出版社:アスコム
出版年:2023年
出版社書籍案内ページ:https://www.minervashobo.co.jp/book/b620529.html
評者:持橋亜紀(会員)
投稿日:2024年4月29日
目を引くタイトルの本書を書店で見たとき、「どういうこと?」と疑問が起こり、次に「LGBTQについての本かな」と思い、最後に「親が子にあてた手紙なのか」と興味がわきました。自分自身が、実際の子育ての中で、親として伝えたいことをどれほど我が子に伝えられているだろうか、と最近よく考えるからです。
本書を手に取って読みはじめると、著者の幼少期の思い出にはじまり、トランスジェンダー女性として生きていくことを選択しお子さんを授かるまでの波乱万丈のストーリーに、ぐいぐいと引き込まれていきました。
筆者が手紙を書いている相手は、お子さんの「もも」さん。執筆当時3歳ですが、12歳になったももさんにあてて書いています。12歳と言えば思春期が始まったころ。トランスジェンダー女性のママ(筆者)と、生みの母のかーちゃんとの家族のあり方に悩む年頃だろうと想像して、自分の生い立ちからトランスジェンダー女性として生きる道を選んだ理由をていねいに書き綴っています。
読み進めながら、しかし、私の印象はトランスジェンダーについての内容だけではなく、ひとりの人として何を大切に考え、感じ、選択してきたか、ということが中心に書かれていると思いました。人は、親である前に、子どもで、学生で、青年で、社会人で、だれかの恋人で、そして何よりもひとりの人間であり、それらはすべて過ぎ去ったものではなくてその人の中に生き続け刻み込まれているのだ、という普遍的で大切な事実に気づかされます。
親を生きる、ということは喜びであると同時に苦しいことでもあると思いますが、そんな親という道を歩んでいる人の背中を押してくれる、勇気づけられる本です。また、逆に親としてではなく、子としての立場で読むこともできると思います。親がどんなことを感じ考えて自分を育てている(きた)のか、振り返るきっかけになるかもしれません。
もうひとつ、本書を読んでいて心に残ったのは、ところどころにちりばめられている引用や映画にまつわるエピソードです。海外特派員として活躍し、報道やニュースコメンテーター、映画プロデューサーという華やかな世界で生きてきた筆者の人生を支えてきた言葉や物語が書かれており、読んでいる私にも強く響きました。
自叙伝として、トランスジェンダーについての一人の物語として、そして親・子・パートナー・仕事人としての様々な視点から読み解くことができる一冊です。
【評者紹介】
持橋亜紀(大和すみれ幼稚園園長)