市民参加型の、新しい学会のかたち。

『おべんとうバス』

作・絵:真珠 まりこ
出版社:ひさかたチャイルド
出版年:2006年
出版社書籍案内ページ:
https://www.hisakata.co.jp/book/detail.asp?b=025222

評者:齊藤恭志(非会員)
投稿日:2025年3月9日

おとなもこどももハラハラドキドキ?

 この本は長男が1歳半から2歳にかけて、よく読んでいました。たくさんの本がある中で、この本はとくに気に入っていました。ハンバーグやエビフライなどこどもが好きな食べ物や、ブロッコリーといった苦手な野菜も親しみやすく描かれていてこどもを惹きつける魅力があったのだと思います。この本をきっかけに、食べ物の名前を積極的に覚えて食べてくれるようになりました。

 ストーリーはゆかいな食べ物たちが「はーい」と元気に返事をして、順番にバスに乗り込んでいくというものです。話のテンポがよくわかりやすいため、親子で登場人物(?)のまねをしながら楽しんで読んでいました。しかし、一見そんな楽しい本ですが、バスに食べ物たちがどんどん乗りこみ、遅刻した食べ物さんも間一髪間に合って読み手も含めみんなでよかったね、と盛り上がったところで「いただきます!」で話は唐突に終わります。元気よく食べ物たちが乗り込んだバスは本のタイトルどおり“おべんとう”であり、最後にはみんな食べられてしまいます。“こども”の本と油断していた“おとな”の私は、この展開がけっこうショックでした。“こども”はどう思って読んでるのかなと、気になってしまいました。しかし、「大好きな食べ物さんたち、食べられちゃうね」と息子にきいてみると、「うん、そうだよ。みんなおいしいよ!!」と予想外の好反応でした。おとながあれこれ心配などしなくてもいいんだなと、痛感しました。

 あと、もうひとつ“おとな”のこころに引っかかったことがあります。それは、ハンバーグくんとエビフライちゃんの関係です。ふたりぴったりと寄りそっている姿は、まるで相思相愛のカップルのようです。そして、たまごやきさんはそばでそっとあたたかく見まもっているようにみえます。あとにバスに乗って来たブロッコリーくんとトマトちゃんも、その2人をしたり顔で見ているようにも見えます。おにぎりさんたちはまだ二人の関係に気づいていないんだろうな、などといつのまにか下世話な妄想を掻き立てられてしまいました。なるほど食べ物さんたちの関係を意識してしまったので、本の結末がこころに引っかかってしまったのでしょうか。家内にそのことを話すと、「なに言ってるの、こどもの本でしょ」と大笑いされてしまいました。 世の中の“おとな”の皆さんは、読後いかが感想をおもちでしょうか。作者さんにお会いする機会があればぜひ、“彼ら”の関係をお伺いしてみたいものです。

 何はともあれ、人によっていろいろな感想や印象をもてる作品というのは素晴らしいと思います。小説や映画でも名作とされるものは、“行間を読む”、“よはくを楽しむ”ことができるものがあります。最近はこどもも動画などをみるようになり、絵本など“静止画”は古いコンテンツのように扱われがちですが、作者さん、製作スタッフさんの想いがページの一枚一枚から伝わってくる本作もまさに名作です。近年は私がこどものころよりも世情が厳しくなっている気がしており、おとなもこどもも“よはくを楽しむ”といった心の余裕がなくなってきている気がします。そんな時代だからこそ、このような作品に触れると日々の憂いから解放され心が癒され豊かになります。息子がこどもをもつ時に、このような“よはく”を楽しむものが残っている時代であることを願ってやみません。

 ちなみに先日、ちょっぴり“おとな”になった3歳の息子にハンバーグくんとエビフライちゃんの関係について伺ってみました。「この二人仲いいね。エビフライちゃん、ハンバーグくんの横にくっついて目をつむってうれしそうだねえ」。すると「そう?疲れて眠いだけじゃないの」と、あっさり返されました。息子の方が“おとな”でした(笑)。


【評者】

齊藤恭志(内科医 齊藤クリニック副院長)

私は父から引き継いだ地域の診療所の町医者です。愛読書はジュール・ヴェルヌ作『十五少年漂流記』です。児童書ですがとんでもない。私にとっては人生の節目のたびに読んでいます。困難な状況でも明るく前向きに生きる活力をもらえるいわばカンフル剤のようなものです。まさに「チェアマン島」に漂着した少年達のごとく日々スタッフと協力し助け合いながら診療をしております。医学の世界でもこころとからだは密接に関連していることを痛感しております。すばらしい本はこころとからだを健康にしてくれます。皆さんも素敵な愛読書をみつけましょう!


Share the Post:

Related Posts